大戦前夜〈上〉―ポスリーン・ウォー〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)ジョン リンゴー John Ringo
大戦前夜〈下〉―ポスリーン・ウォー〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)ジョン リンゴー John Ringo
上下巻分冊となっているが、1冊当りの分量を考えればわざわざ分冊する必要性を感じないレベル。
文字もやや大きめでスラスラ読めるのは心地良いが、財布的には文字を小さくしてでも1冊にまとめてくれたほうが有り難かった。
内容的には古式ゆかしい宇宙からの侵略者と戦う物語なんだけど、少し設定にひねりがあって、好戦的なポスリーン人という宇宙人と、比較的平和主義な複数種の宇宙人によって組織された"連邦"との戦争に地球が巻き込まれるという迷惑な話になっている。
連邦曰くはポスリーン人の進行ルート上に地球があるので他人事ではないという事らしいが、作中で描かれる連邦の内情…種族や能力によるカースト制っぽい社会…が胡散臭いことこの上ないし、いくらポスリーン人に対抗するためとは言え、充分に好戦的で連邦の基準からしたら危険な種族の地球人を利用するからには何か裏があるような気がする。
また、時代設定が現在から10年ほど前の、テロとの闘いが始まる直前の時代というのも興味深い。
さすがに現代の戦力では宇宙人とは戦えないので、連邦から技術移転して開発された新兵器で対抗する事にはなっていますけど、一部の現用兵器はそのまま使用されるので、看板の「ミリタリーSF」も決して嘘ではない。そんなにミリタリーっぽくはないけれど。
で、作中の宇宙人達の描き方で面白いのは、下巻の後半では敵であるポスリーン人の視点で描かれるシーンが結構挿入されるのだが、社会システムや文化(特に食文化)に関しては地球とは全くかけ離れているものの、感情の起伏や思考のロジックに関しては地球人にも理解しやすいものになっていて、"連邦"の胡散臭い宇宙人達よりもある種の親しみを感じてしまうものになっている。
そういう視点でポスリーン人を見ると、あらゆる生物を食ってしまう悪食ぶりはまるでお隣りの国の人みたいだし、複数の梯団を組んで数で押し寄せてくる戦法はまるでお隣りの国の戦術みたいだし、実はこれある種の黄禍論的思想で書かれた作品ではなかろうかとも思える。
ポスリーン人の血が黄色いのも、黄色人種の隠喩とも取れるし。
なお、この上下巻は物語のプロローグでしかなく、これから長い長いポスリーン人との本格的な戦いが始まるんだそうです。