2011年03月07日

太陽の村 感想 朱川湊人




太陽の村
朱川 湊人
4093797536



ハワイへの家族旅行の岐路で遭遇した飛行機事故。
一人生き残ったオタク青年が漂着したのは、不思議な島だった。

という訳で、日本の室町時代頃に似てはいるものの、何かが根本的に違っている謎の島に流れ着いたオタク青年の冒険と成長を描く本作品。最初はタイムスリップか異次元かとわくわくさせてくれたが、終盤の種明かしについてはいささか拍子抜け的なものがあった。
とは言えラノベ的な文体とコミカルなキャラクターが特徴的な作品なので、こういう大掛かりなギミックもありとえばありか。

若干ながらステロタイプなオタク批判のエッセンスは感じたが、作品自体はオタク向けじゃないのでそういうものだと思って読むしか無い。
ただ、一番ラストで主人公に突きつけられた選択肢はなかなか考えさせるものがあった。
俺みたいに自分の限界を知ってしまった人間なら島に残る方を選ぶだろうが、まだ俺は本気になってないだけと思える世代なら帰る方を選ぶかも知れない。
いずれにせよ明確な回答を敢えて作中では描かないところが良かった。



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2011年02月04日

あっちが上海 感想 志水辰夫

あっちが上海 (集英社文庫)
志水 辰夫
4087496058



シミタツ先生というと浪花節とハードボイルドが高次元で融合した独自の世界観が売りだと思ってたのですが、この作品はそんなイメージをひっくり返す(根幹からひっくり返してないところがポイント)変化球。タイトルからして従来のシミタツ節的な響きを残しつつ、どこかコミカルな感じになっているけど、内容もまさにそんな感じ。
偽装船舶事故を得意とするプロ詐欺師が"仕事"現場で偶然手に入れた米軍の秘密兵器を巡って、CIAからモサド、中国に到るまで世界中の諜報機関が日本…偽装事故現場に近い五島列島のとある島に集まってくる中、それらのプロを出し抜いて…という話。
こう書くと若干ホラ気味ではあれど比較的普通の冒険小説にも思えるが、登場人物の性格が結構コミカルになっていて、軽妙で時に情けない会話や、そんなアホなwという展開とで笑わせてくれる。
シミタツ先生マジ引き出し多い…。
たまにはこういうのもいいかなーと思った。面白いのは確かだし。




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2011年01月28日

光の帝国 常野物語 感想 恩田陸


光の帝国 常野物語 (常野物語) (集英社文庫)
恩田 陸
4087472426



常野というキーワードで繋がった超能力を持つ一族の連作短編集。

すこしふしぎに始まってホラーからバトル風味まで、話毎に違った味わいがある。
舞台設定も現代からいつの時代かわからないものまで多彩で、たとえば表題作の「光の帝国」の舞台は未来の日本か、或いは平行世界の日本を思わせる不穏な時代を舞台としている。
もしかしたら太平洋戦争直前を描いたつもりなのかも知れないが、常野の者の能力の軍事利用を部隊としている目論む軍が常野に"特殊部隊"を潜入させてくるというくだりで、俺はこれは遥か未来か或いは平行世界だろうと思った。
なぜなら過去の日本軍に特殊部隊と呼ばれる内容の組織が存在した事実はないからで、無い筈のものが存在している=平行世界と理解するのが最も論理的なのは言うまでもない。
もちろん平行世界とする論拠は他にもあって、常野の人々の中心人物であるツル先生に関しては、時間と空間を超えて存在できる能力者である事を思わせる記述がある。
時間と空間を超越し、無数に存在する平行世界を渡る者…ロマンではないですか。

バックストーリーはかなり壮大な雰囲気だけど、その辺りは匂わせる程度にとどめているのが確信犯的。超常の力を持ちながら、あえて野にある生き方を選ばせる事となった経緯など、気になることは五万とある。その辺りを少しずつ描いていくのだとしたら、なかなか面白そうなシリーズだと感じた。



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2011年01月18日

ムーミン谷の十一月 感想



ムーミン谷の十一月 (講談社文庫 や 16-8)
トーベ・ヤンソン Tove Jansson
4061381164



ムーミンシリーズの最終巻は、冬の足音が迫るムーミン谷を舞台に、ムーミン一家以外のキャラクターたちが織り成す物語。ムーミン一家は旅に出ているという設定なので登場しません。

晩秋のある日、何かに導かれるように主不在のムーミンムーミンハウスへと集まったサブキャラクターたちが、数日間の共同生活をするというのがストーリー。
と言ってもムーミンシリーズのキャラクターたちはみんな個性が豊かすぎる上に自我も強いので揉め事ばかり。みんながてんでバラバラに主張しあうばかりで、読んでて結構どんよりしてくるモノがある。こいつらには空気を読むという概念はないのかと。
日本では穏やかな大人なイメージの強いスナフキンも、原作では機嫌が悪いと奇声を上げたりする結構アレな人(?)だからなー。まとめ役不在のまま終盤まで取り留めのない展開が続くが、そんな状態でも全員の心の中にはムーミン一家の存在がひとつの指標として存在していて、それが最悪の事態への最終安全弁となっていた感があった。だから最後には皆で同じ方向を向くことができたのかも知れない。

ムーミン一家を登場させない事により、一家の存在の大きさを感じさせるという手法。
誰もがムーミン一家のように仲良く穏やかに楽しく暮らすことは出来ないけど、そうあろうと努力する事はできる。そしてそれが一番尊い事なんだと感じた。



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2011年01月17日

インスマス年代記〈下〉感想


インスマス年代記〈下〉 (学研M文庫)
スティーヴァン ジョーンズ
4059000795



上巻は未入手。

これはある意味クトゥルー好きに対する挑戦状とも言えそう。
原点の雰囲気に比較的近い古式ゆかしいインスマスから、IT企業の本社ビルが屹立するインスマスまで、様々なインスマスが読める短篇集。
比較的近年の作品を集めているので、時代背景も現代のものばかりで、時代性をうまく物語に反映させている作品が目立つ。特にルーマニア革命直後の混乱期をクトゥルー神話に擬えた異色作や、深きものども達がインターネットやゲームを使って洗脳/侵略を目論むディープ・ネットの話が実に興味深かった。
こうして時代性を大胆に取り込む事で、今現在も地球の何処かで奉仕種族達が暗躍している事を感じさせてくれる。
クトゥルーは決して過去の物語などではない。



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2011年01月16日

飢えて狼 感想 志水辰夫

飢えて狼 (新潮文庫)
志水 辰夫
4101345171




零細ボート屋のオヤジが米ソの陰謀劇に巻き込まれて…という話。執筆当時まだソ連という国があったので、米露ではなく米ソ。
大きく分けて物語の発端編→択捉潜入編→解決編の3部構成で、特に素晴らしいのが択捉潜入編。
ソ連がなくなって久しい今の時代においても北方領土の情報は少なく、検索をしてもたいしたことはわかりません。Google Mapで作中の舞台となった地域を見ることはできるけど、あくまで地形情報が得られる程度。なので作中の描写がどこまで正確かはなんとも言えませんけど、すぐ近くにありながら謎に包まれた島での追いつ追われつのサバイバル劇なんて、これで燃えない訳がない。

実際問題ボート屋のオヤジが国際謀略戦に巻き込まれるという大風呂敷はいささかリアリティに欠けるが、サバイバルの描写がなかなか細かくて読ませてくれたので、冒険小説としてはかなり面白い部類に入ると思う。
シミタツさんの本はどんどん読んでいく予定ですよ。



posted by 黒猫 at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 冒険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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