2010年07月14日

哄う合戦屋 感想 北沢秋


哄う合戦屋
北沢 秋 志村貴子
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ものすごーく現代ものチックな戦国小説。
物語としてはそれなりに面白いし、テンポが良くて読みやすいのも美点ですけど、たぶん歴史マニアの人にとっては考証面で突っ込みどころが多いような気がする。
また、主人公一徹が天才軍師という割には、最後の最後は自分が敵将と一騎打ちして首級を挙げるというパターンが多いのが気になる。軍師が槍を振るったらいかんでしょう…。
それに戦術の描写に関しても、事前の駆け引き以外は戦国SLGの合戦フェイズ的で、武器や仕掛けを活かした戦いという感じではないですね。

という訳で、歴史小説として読むとアレですけど、一徹の屈折した情念と若菜姫の出来の良さ、ついでに一般人代表とも言える吉弘のつつましい器の小ささを楽しむのが吉。
特に吉弘は一徹の活躍で領地が広がった事に最初は喜んでいたものの、やがて自分の器量を超えて領地が広がり始めた途端怖くなって一徹を疎み始めるヘタレ感に共感しまくり。
現代的に言うと、田舎の零細企業の社長が中途採用した社員の能力でヒット商品を乱発し、気が付くと大企業とも肩を並べられる位まで成長するものの、国内大手企業のみならず外資大手などの魑魅魍魎が犇めく修羅の世界を見た途端恐ろしくなって、もとの零細時代に戻りたくなってしまったというか、そんな感じ。
吉弘は基本的に善人なんですけど、善人故に野望の器も小さいんですよねえ。
ある意味癒しキャラですわ。




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2010年07月07日

城は踊る 感想 岩井 三四二



城は踊る
岩井 三四二
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ああ、これ面白いな。
有名武将はほぼ登場しない、名もなきいち武者の視点で描かれる城攻めの物語。
派手な合戦はありませんけど、戦国時代当時の武士の置かれた立場と、リアルな城攻めの描写が魅力的。世の東西の違いはあれど、富士宏先生の『城物語』に通じるものがある。

後半はちょっとドロドロした愛憎劇が入ってきておや?と思える部分もありますが、しかし私怨によって戦が行われ、それに従うしか無い理不尽と虚しさを描くのもある意味リアルといえばリアルか。読後感は決して爽やかでもなければ感動もしない。でもそれは物語としてつまらないという意味では決して無くて、出来すぎた講談調とは一線を画する生々しさ故なんだと思う。

ケレン味ばかりを追求した昨今の歴史物に食傷気味なら楽しめる。たぶん。



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2009年12月29日

ノモンハンの夏 感想 半藤一利 


ノモンハンの夏 (文春文庫)
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ノモンハン事件を取り扱った本は多数ありますが、当事国である日本とソ連だけでなく当時の国際情勢全般を踏まえて事件を精査し、総論として纏めた本となるとやはり本書が基本ではなかろうかと根拠なく思います。

三国同盟や独ソ不可侵条約を巡ってスターリンとヒトラーが虚実入り混じった駆け引きを繰り広げていた当時、参謀本部の甘い見立てと、敵国を侮る思い込みと、そして何より当時の内閣のビジョンの無さからどんどん深みに嵌っていく日本の姿は読んでいて悲しくなってくるものがある。


本書はいわゆる司馬史観の様に、この事件をして日本の侵略だと断定して非難している訳でもなければ、一時期雨後の筍のように増殖していた威勢の良い人達のようにソ連軍の損害の方が大きいから日本の勝利だと息巻くわけでもなく(そもそも特定の戦場での単純な死傷者数だけを比べても無意味です)、事件の経緯をかなり冷静に分析して書かれている様感じます。
主題となっているのは上でも触れたように、意思決定機関のダメっぷりと、現場の独断専行。そして何より、誰も責任を取らないシステムの齎すものに関して。
反面戦術的な話はかなりざっくりと流されているので、そちらに関心がある人はまた別の本を探していただくしか無い。

それにしても意思決定機関と現場とが乖離した構図や誰も責任を取らない点などは、現代でもあまり変わってない気がするのは考えすぎでしょうか。
威勢の良い言葉と裏腹に具体性に欠ける政治や、あらゆる責任を自己責任の名のもとに個人レベルに矮小化して擦り付け合い結果誰も責任を取ろうとしない現状が、本書に書かれる1930年代の日本の姿と重なって見えて仕方が無いです。
ある意味鬱本かも知れません。


読めば読む程暗い気持ちになってしまうという事で、決して楽しい本ではありませんが、この時代の歴史に関心があるなら読んでおいて損はないと思います。




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2009年08月11日

武器屋 Truth In Fantasy 感想

武器屋
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古代から17世紀初頭辺りまでの時代に登場した、様々な武具を国や兵科別にまとめたなかなかにマニアックな一冊。
発売当時ちょうど西洋風ファンタジー絶頂期だったために、武具類が主にヨーロッパのもの中心なのがやや残念ですが、こればかりは時代背景と割り切るしかない。それでも一応はネイティブアメリカンやアステカ人の武具などにもページを割いていて興味深く読めました。


子供の頃は剣や斧と言った武器類にばかり目が行っていたものですが、いまこういう本を読むとやはり防具類に強い関心を持たざるを得ない。
というのも、防具の変遷はそのまま武器の変遷と戦術の変遷を表しているからで、16世紀頃を境に銃器の発達によって鎧が無意味なものになっていくと、軽装歩兵の様に限定的な部位だけを守るタイプのものへと変化していくのが面白い。(本書では触れられていませんが、日本でも戦国時代は既に主力兵器は鉄砲と弓矢だったそうで、かつての大鎧からより機能的な具足へと変化しています)

純粋に武具類のイラスト集としても楽しいですし、武具の変化を通して歴史に思いを馳せるのも楽しい。
月並みな言い方ですが、人類の歴史がそのまま戦の歴史である事がそこはかとなく感じられる1冊。



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2009年04月27日

箱館戦争全史 感想 好川之範

箱館戦争全史
好川 之範
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戊辰戦争の棹尾を飾る、箱館五稜郭を巡る戦い。
本書は幕府軍の鷲ノ木上陸から始まって、新政府軍の乙部上陸を経て降伏にいたるまでの各地での戦いの模様を、箱館の郷土資料や当時戦いに参加した人達の子孫に対するインタビュー等を通して解説した一冊です。
各地での戦闘だけでなく蝦夷共和国の内政の行き詰まりなども卒なくまとめられていますが、どちらかと言うと政治や戦術よりも人物に焦点を当てていて、一般的な歴史資料とはまた違った視点で書かれているのが特徴的。

ただやはり、一つ一つの戦いに関する記述はもう少しボリュウムが欲しいですね。山場といえる宮古湾海戦や二股口の戦いまでかなりあっさりと流されているのは物足りなさを強く感じます。
蝦夷地上陸から降伏までは僅か半年程度の期間の事なのですから、もう少し内容を増やして書いても良かったのではないですかね。ポイントこそきっちり押さえているものの、やや教科書的に過ぎるのが惜しまれるかなあ。
もっとディープなものを望んでしまうのは贅沢か。


そんな中、土方歳三を狙撃したとされる米田幸治に纏わるくだりは結構興味深く読めました。
著者も"伝承"という言葉を使っているように、正式な史実かどうかはよく判らない部分であり、騎馬武者を撃ち倒して駆け付けてみると、新政府軍に首級を挙げられるのを嫌った幕府軍側が首を切って持ち帰っていた、陣羽織には土方と書いてあった――という話ですが、一応当時の資料にも一本木関門で幕軍の重要人物か負傷し、助ける事は出来ないので首を刎ねて五稜郭に持ち帰ったという記述はあるらしいですから、あながち伝承と言い切る事も出来ない。もっとも、それが事実だとしたら新撰組ファンにはかなり恨まれそうですが。

こうした史実かどうかわからない部分も積極的に資料を突き合わせて検証していく姿勢は、個人的に歴史を扱う本に対して期待している部分のひとつでもあります。


全体としては割りとライトな歴史本。資料をまめに当っていて、著者の主観はかなり排されているので、この時代の歴史に興を持ち始めた人には丁度いいかもしれません。あらましは知っているけどもっと深く知りたいという向きには物足りないかもです。






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2009年03月05日

外道忍法帖―忍法帖シリーズ 感想 山田風太郎

外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)
山田 風太郎
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『甲賀忍法帖』に次いで読んでみた山田風太郎忍法帖シリーズ。
今回はローマ天正少年使節団がローマ法王より下賜されたという百万エクーの金貨を巡って、老中松平伊豆守配下の伊賀忍者15人、幕府転覆を目論む由比小雪配下の甲賀忍者「張孔堂組」15人、そして財宝の鍵をとなる鈴を体内に隠し持つ15人の童女(この少女達も大友忍者という設定)合計45人が入り乱れる異形バトルです。

まあ、何と言うか物凄い野心作なのは間違いないし、面白いのも間違いないのですが、登場人物の多さだけは如何ともしがたい。
ただネットとはありがたいもので、ちょっと検索するとこの作品に登場する45人+2人の忍者達を簡潔に解説をしたページがありましたのでそれをプリントアウトして手元に置いた状態で読書。
作中にも3グループそれぞりの忍者が一斉に名乗りを上げるシーンがありますから、その際に名前だけでもメモしておのも良いかも知れません。
とにかく本編は勝負に継ぐ勝負で、殆んど台詞もないままに死合って果てるキャラクターも多いだけに、状況をしっかり把握しておかないと置いてけぼりになる危険性もなきにしろあらず。

ラストでの、15童女の首領マリア天姫によって語られる全ての構図は良い感じにクラクラさせてくれます。そしてマリア天姫の使うある意味最強にして不死身の忍術にも戦慄を覚えざるを得ない。
これぞまさに山田忍法。
この人の凄いところは、破天荒な忍法を編み出してもそれに対して言い訳がましい超理論をこじつけしないところにあると思います。無茶苦茶やっているんだけど許せてしまうのは、娯楽に対する姿勢の徹底した潔さ故。


本館で漫画ブログをやっている関係上か、この作品も漫画にするとさらに面白いだろうなあと思えてなりません。奔放なイマジネーションから生み出される数々の山田忍法は、やはりビジュアル化してこそその新の魅力が遺憾なく発揮されると考えるのですがどうか。



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2008年09月30日

山彦ハヤテ 米村圭伍 感想

山彦ハヤテ
米村 圭伍
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若殿様と山童の友情と成長を、陸奥の国の小藩で繰り広げられるお家騒動を背景にのほほんと描く時代劇。
一応時代物と言う事で立ち回りもあるにはありますけどその辺は控えめで、メインはやっぱり若き折笠藩藩主三代川正春と、山に一人で住んでいる野生児ハヤテとの軽妙なかけあいの面白さにあると思います。

どちらかと言うと講談調の物語で割と都合の良い展開も多いのですが、時代物だとその辺かなり許せてしまうというか、あまりシビアでない方がらしいのも事実。
著者の語り口からして柔らかい感じですし、気楽に読むのには最適でしょう。


正春は年若い事もあってか基本的にお人よしで、厄介事からは目を背けるタイプなのですが、そうであるが故に藩内に渦巻く不穏分子を増徴させてしまい、常に暗殺の危機に立たされていて――でもやっぱり立ち向かう事よりも目を背けて逃げる事を選んでしまうプチ駄目人間です。
一方のハヤテも、父親が凶状持ちとなったことを知って逃げ出し、放浪の末に藩によって一般人の立ち入りが禁止されている山に隠れ住み、毛皮を売って金に換えたり米を買ったりする用事以外では極力山から出ないある種の引きこもり人間。
この二人が出会い、互いに成長してゆく様が大きな見所の一つでしょう。

脇を固める登場人物たちもそれぞれの役目をきちんと果たしていて、物語を盛り上げてくれます。
基本的には1話使い捨ての登場人物が多い中、最初から最期まで登場する準レギュラーの箕島弥乃助が個人的にはお気に入り。正春に対して、禄さえ貰えれば藩主は必ずしも正春で無くとも問題ないと言う旨の台詞を平気で吐ける半面、正春の使いで旗本の屋敷に届ける箙を盗まれた際には、腹を切るつもりで盗まれた旨旗本に正直に申し出ると言う、自らの信念に生きる武士です。
主は誰でも良いとしても、自らが誓った忠義にだけは誠実でありたいという、ある意味不器用かも知れない生き方が素敵w


ところで他の方のレビューを見ると、米村氏の他の著作の登場人物もゲスト出演しているらしいのですが、これが初めての米村作品なのでその辺の遊びが楽しめないのは残念です。
機会があれば他の著作も読んでみたいですね。

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2008年04月02日

甲賀忍法帖 山田風太郎

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山田 風太郎

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ラベル:書評
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2007年04月27日

泣き虫弱虫諸葛孔明 酒見賢一

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2007年04月12日

2007年02月03日

狙うて候――銃豪村田経芳の生涯 東郷隆

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ラベル:書評
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2006年12月23日

2006年08月05日

蛇の王 ナーガ・ラージ/東郷隆




19世紀、まだインドがイギリスの植民地だった当時を舞台に、実在した殺人を教義とする宗教的秘密結社「タグ」のリーダーラージ・シンの半生を描く歴史読み物です。

タグとはカーリー神を崇拝し、業に苦しむ人たちを転生させるべく独自の武器「ルマール」でもって絞殺し、その持ち物を頂く(彼ら曰く強奪目当てで殺めてはいけないそうです)事を生業としています。ラージ・シンは少年時代にふとしたことでこの結社に関りを持ってしまい入団、巨大なコブラ「ナーガ・ラージ」を倒した事でリーダーとしての頭角を著して行きます。

教義と人間としての良識の狭間で苦しみつつも数々の試練と出会いを繰り返しながら着実に成長してゆくシン。しかしある時亡き父親の敵の存在を知ったシンは、結社を挙げて敵討ちに向かい、無事敵を討ちますがイギリス当局に目をつけられてしまいます。

彼の前に立ちはだかるのはイギリス植民地軍のウィリアム・スリーマン。最新の武器と堅実な戦術の前には個人戦においては比類なき強さを誇るタグとて到底太刀打ちできずに敗走、シンは妻のクマール達と共に落ち延びますが、道中奪った装身具がもとで当局に遂に捕縛され、塔に幽閉されてしまいます。

そして数十年の時が流れ、インド各地で反英暴動が頻発し始めた19世紀後半。かつてのタグの系譜に当るとされる集団がシンの幽閉されている城に押し寄せてきます。彼らの要求はシンの開放。しかもリーダーはシンの妻だったクマールの孫娘。
しかし塔の窓に現れたシンは意外な言葉と行動に移るのでした・・・

作者の東郷氏といえば昔PCエンジンでゲーム化もされた「定吉七番」を執筆し、80年代末〜90年代初期の戦記ブームの頃はアフリカの小国を舞台に一両の戦車とそれに纏わる人々を描くヘルガシリーズなど世間の流行の斜め上を行く作品を発表してきました。その後数年の沈黙期間を経て洋式大砲を軸にしたこれまた斜め上の幕末もの「大砲松」で吉川英治文学賞を受賞した事でも有名です。
どうも大砲や古い銃器に造詣が深い様で、この作品においてもエンフィールド銃や当時の山砲等の描写が妙に細かい。こうした過渡期の火器は日本では完全にミッシングリンクとなっている(火縄銃からフリントロックや雷管式を飛ばして金属薬莢に変りましたので)だけに、実に興味深く読めます。

また植民地時代のインドの歴史や風土も細部に至るまでリサーチした上で書かれているのが良く伝わってきて、インドに興味のある人なら楽しめると思います。総頁数が500頁以上という大作ですが、読みやすい文体と個性的な登場人物の魅力も相まって3日程で読了しました。


34冊目
ラベル:蛇の王 
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