捕食者なき世界
ウィリアム ソウルゼンバーグ 高槻 成紀 William Stolzenburg
頂点捕食者がいかに生態系のバランスを保っているのかという話を、生物学者たちの苦労(というよりも執念)溢れるエピソードを通して論じるノンフィクション。
基本は食物連鎖の話なので、取り立てて新説や新発見がある訳ではないのですが、生物界の覇者となりながら生態系の維持に関してはあまり関心の無い怠惰な頂点捕食者であるところのホモサピエンスに対する警句に満ちた内容となっていて、世界規模で生態系の変化が観測される現代だからこそ一読しておくべき書ではあります。
また、書の後半では生態系の維持に勤勉な捕食動物を北米に導入すべきだとの論があり、北米大陸にライオンや像を放てと半ば暴論じみた論調の話も出てきますが、象やライオンはともかくも、個体数が減ってしまった狼などを再生することによって、増えすぎた被捕食者を適正な数に収めることが出来るのなら一考する価値はありそうな気がした。
実際日本でも鹿や猪が増えすぎて食害が問題になっているだけに、タイムリーな提案と言えそうです。ただ、その為には仮に狼が人や家畜を襲った場合、いかにして散弾銃を持ち出すことを抑制するかと言う大問題が横たわっていますが。
どこまで現実と折り合いをつけるかが難しいところではありますが、貴重な提言を投げかけている良書だと思います。