2011年02月04日

あっちが上海 感想 志水辰夫

あっちが上海 (集英社文庫)
志水 辰夫
4087496058



シミタツ先生というと浪花節とハードボイルドが高次元で融合した独自の世界観が売りだと思ってたのですが、この作品はそんなイメージをひっくり返す(根幹からひっくり返してないところがポイント)変化球。タイトルからして従来のシミタツ節的な響きを残しつつ、どこかコミカルな感じになっているけど、内容もまさにそんな感じ。
偽装船舶事故を得意とするプロ詐欺師が"仕事"現場で偶然手に入れた米軍の秘密兵器を巡って、CIAからモサド、中国に到るまで世界中の諜報機関が日本…偽装事故現場に近い五島列島のとある島に集まってくる中、それらのプロを出し抜いて…という話。
こう書くと若干ホラ気味ではあれど比較的普通の冒険小説にも思えるが、登場人物の性格が結構コミカルになっていて、軽妙で時に情けない会話や、そんなアホなwという展開とで笑わせてくれる。
シミタツ先生マジ引き出し多い…。
たまにはこういうのもいいかなーと思った。面白いのは確かだし。




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2011年01月16日

飢えて狼 感想 志水辰夫

飢えて狼 (新潮文庫)
志水 辰夫
4101345171




零細ボート屋のオヤジが米ソの陰謀劇に巻き込まれて…という話。執筆当時まだソ連という国があったので、米露ではなく米ソ。
大きく分けて物語の発端編→択捉潜入編→解決編の3部構成で、特に素晴らしいのが択捉潜入編。
ソ連がなくなって久しい今の時代においても北方領土の情報は少なく、検索をしてもたいしたことはわかりません。Google Mapで作中の舞台となった地域を見ることはできるけど、あくまで地形情報が得られる程度。なので作中の描写がどこまで正確かはなんとも言えませんけど、すぐ近くにありながら謎に包まれた島での追いつ追われつのサバイバル劇なんて、これで燃えない訳がない。

実際問題ボート屋のオヤジが国際謀略戦に巻き込まれるという大風呂敷はいささかリアリティに欠けるが、サバイバルの描写がなかなか細かくて読ませてくれたので、冒険小説としてはかなり面白い部類に入ると思う。
シミタツさんの本はどんどん読んでいく予定ですよ。



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2010年02月28日

もっとも危険なゲーム 感想 ギャビン・ライアル

もっとも危険なゲーム (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18-2))
菊池 光
415071052X



ギャビン・ライアル作品三冊目の本作品の舞台は北欧フィンランド。
「深夜プラスワン」はフランス、「ちがった空」は地中海地域を舞台にしていたので、ライアル作品は一作ごとに舞台となる地域が変わるみたいですね。

今回の物語は贋金製造を巡る陰謀劇を背景にしながらも、そうした世俗に塗れた世界とは一つ違う独自の世界に生きる屈折したプロフェッショナル二人の決闘がメインとなっています。
タイトルの「もっとも危険なゲーム」というのも、まさにこの決闘をピンポイントで指しているわけで、謂わばラスト数十ページの決闘シーンのために贋金製造のサイドストーリーが存在していると言ってもたぶん間違ってないでせう。
戦後間もない時代が舞台だけに、大戦中のエピソードも物語に多少関わってきますけど、あくまで時代背景を演出するための舞台装置でしかないし。

決闘シーンへの導入と、息詰まる戦闘、そしてプロフェッショナルらしい結末に到るまでの流れが素晴らしいだけに、少し尺が足りない気がします。
決闘だけで全体ページの1/3位使ってもよかったかなあ。どこかのスナイパー小説の御大ならこれだけのネタがあれば上下分冊にして下巻まるごと決闘に費やしそうだ…そこまでやって欲しいとは思いませんけども。


「ちがった空」の時も感じたのですが、ライアル作品は舞台となる土地の雰囲気を代表する要素を抜き出して端的に描写する事で読者のイメージを刺激するケースが多い様で、今回の作品もフインランド=森と湖の国というイメージを最大限活かした描写がなされていました。
活字を追っているだけで無意識のうちに頭の中に絵が浮かぶ作品と言うのは意外と少ないだけに貴重ではないでしょうか。




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2010年01月29日

天空への回廊 感想 笹本稜平

天空への回廊 (光文社文庫)
4334737110



山岳小説風味に調理された国際謀略サスペンス。
謀略ものは結構好きなジャンルの一つですが、山岳小説は全くの未体験ゾーン。生死が常に隣り合わせとなった極限状態を描くことがジャンルの特徴だとは聞いていますが、実際に読んだ経験が無いのであまり判ったような事は言えない。当然本作品を読んでも山岳パートの出来不出来を論ずることも出来ない。
そういう次第なので、山岳パートにはあまり触れませんがご容赦を。


エベレストに墜落した冷戦時代の亡霊"ブラックフット"を巡って、アメリカ、中国、毛沢東主義者、テロリスト入り乱れた大謀略戦を繰り広げるのが本作品。
ブラックフットとは冷戦時にソ連に対抗して立案された、宇宙から地球のあらゆる地点を攻撃可能な核攻撃衛星ですが、本来はプランだけの存在だと思っていたら極秘で実機が製造され宇宙に上げられていたという話。

物語は最後までこの墜落した衛星を中心にして複数の勢力の思惑が交錯して行く事になるのですが、この作品の特徴的な所は序盤〜中盤にかけて一気に複雑化させた物語を、後半は次から次へとどんでん返しを繰り返して比較的シンプルな構図へと絞り込んで行く構成にあります。
最終的には事態の大半は衛星の部品を狙うテロリストによって偽装された壮大な狂言だったというところまで絞り込まれてしまうのですが、さすがにこれはやりすぎだと感じた。
先が読めない展開というよりは斜め上な展開に近い。

ただ、主人公の真木郷士はこの手の作品りありがちな、元工作員とか特殊部隊隊員とかの経歴を持ち、実は格闘にも銃の扱いにも精通していたりセガール拳をマスターしていたり…と言ったことは全く無いただの登山家の青年であって、最後まで極限状態の中で山を登るという行為に終始させた部分は良かったです。物語が二転三転する中、主人公のポジションだけは転がること無くしっかりと地に足が付いていたと感じた。

少し無理にどんでん返しを入れすぎてリアリティを損ねている感はありますが、娯楽作品としてはなかなか面白かったですね。



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2009年12月27日

南極上空応答せよ マリオン・E・モリス 感想

色々と面白そうなネタをたくさん用意しながら、結果として何一つ活かせなかった作品。
南極に基地を構えたナチスの残党、イスラム過激派との関係、ナチスと言う共通の敵を前にしての米ソ(作中時間は1980年代)の打算…こうした諸々が、作者のかなり誇張されたナチス批判とユダヤ擁護、今となっては時代の徒花としか言えないウーマンリブ思想などの開陳にページを食い潰されてしまって、気がつけばほぼ全ての伏線が未処理のまま投げっぱなしEND。
これはつらい。

欧米ではことナチスとなると無茶な感情論が平気でまかり通るらしく、「ナチスはユダヤ人を根絶やしにする目的で誕生した」とか平気で書いているところに戦慄した。
その超理論で言うと「イスラエルはパレスチナ人を根絶やしにする目的で誕生した」とも言える。しかし作中ではその辺は一切スルー。ナチとジューに関しては自由の国アメリカですら検閲や圧力が存在したりするのだろうか。

ユダヤ人かわいそう!女権拡大!などと博愛精神を喧伝しつつ、太平洋戦争当時の日本をジャップとおっしゃる超ダブルスタンダードぶりにもおののく。まあアレだ、ジャップとやらは人間じゃないらしいから「人種」差別に該当しないとか、そういう類のギャグなんだろう。


珍書・奇書としても内容が中途半端すぎていまいち笑えないし、なんだかなー、と言う一冊でした。


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南極上空応答せよ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)


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2009年06月20日

蒼穹の槍 感想 陰山琢磨

蒼穹の槍 (カッパノベルス)
陰山 琢磨
4334075673



麻薬や海賊品などによる地下経済が世界の実体経済を蝕み始めた近未来を舞台にして、蒼穹の槍と呼ばれるテロ兵器をもって世界を恫喝する麻薬王に、図らずも蒼穹の槍の設計に手を貸してしまった日本人の男女が戦いを挑むという近未来サスペンス+軍事スリラー。
大石英司先生辺りが書きそうな内容ではありますが、衛星軌道上からマッハ8の砲弾を地上に落下させてインフラ施設を狙い撃つという豪快なアイデアは陰山氏ならでは。
ミサイルでもなく核でもなく、大砲の弾というところが戦車小説の第一人者らしいです。

そこはかとなくロケット技術や弾道学の香りが漂っていて、そう言うのに反応する人にはなかなか魅力的な世界観ではありますが、一般向けとするとややマニアックかなあ。
なにせ仮想戦記やSFのレーベルではなく、一般的なミステリーなども刊行しているレーベルだけに、ミステリーの客層からはオタク臭いだペダンティックだと嫌われそうな雰囲気満載。
まあ、逆にそれが良いんじゃないかと言う僕みたいなヒネクレ者もいるとは思いますが、少数派だろうなあ。


気になった点として、柏崎原発が蒼穹の槍の攻撃を受けて原子炉が全壊するシーンがあるのですが、それによって引き起こされるカタストロフの描写が極めて限定的なのはどうなんかなあと思う。
実際には施設の職員近隣住民はもとより、風に乗って関東平野まで放射能が運ばれる事で未曾有の大惨事になる筈なのですが、そうした部分は完全スルーされていた。
この点については陰山氏は若干2ちゃんねらてきな変な思想を持っている節があるので、「なあに、かえって免疫が付くニダ!」というアレを信じているのかもしれません。
まあ、戦争描写に関しては妙な思想は含まれていないのでさほど気にはなりませんけど、どうしても偶に漏出してしまうのは仕方ないよね。にんげんだもの。

逆に言うと気になる点はその程度で、あとは終盤のまとめ方がやや駆け足だったこと以外は不満なし。むしろエンタメとしてのレベルは高いです。
ホンダロボット最強。


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2009年06月10日

荒鷲の要塞 感想 アリステア・マクリーン

荒鷲の要塞 (ハヤカワ文庫 NV 162)
平井 イサク
4150401624



アルプス山中の要塞化されたゲシュタポ本部"シュロス・アドラー"に囚われた米軍将校を救出すべく、極寒の山中に降下した英軍コマンド達の戦い。
一応カテゴリー的には仮想戦記と分類しても良いのかなあと思いますが、内容はミステリーに近いものが多分にあります。特に降下した途端仲間の一人が何者かに殺害されるのを皮切りに始まる、誰が味方で誰がドイツの工作員かと渦巻く疑念。
シュロス・アドラーに潜入してからも、ミスリードを誘うが如くに二転三転するストーリーと繰り返される裏切り。誰が嘘を言っているのかすら判然とせず、つい今しがたまで仲間だと思っていた人物に短機関銃を突きつけられるサスペンスフルな展開が連続します。
終盤のケーブルカーでのアクション直前で一本化されるまでは、複雑に錯綜した登場人物の立ち位置を把握するだけでも結構大変で、何度も途中で数十ページ遡って読み返したりしました。


谷に渡されたケーブルカーでのアクションや、施設の破壊など派手なシーンもふんだんにあって見所は多いのですが、自分の場合過去に読んだマクリーン作品が「女王陛下のユリシーズ号」だけでしたので、壮大なスペクタクル的な描写がほとんど無くなっているのにやや違和感を感じたりも。どうもハリウッド映画用に書いた小説らしいので、その辺予算と尺にあわせてコンパクトに収まっているみたいですね。


いくら映画用に書いたとは言え流石にこの時代にヘリコプターは無かろうと思いますけど。実際たいして作中でのギミックとして活用された訳でもないですし。
厳密に言うとドイツにはFa223という異形のヘリコプターがあるにはあるのですが、長い胴体と左右に張り出した2基の巨大なローターなど、なかなか図体が大きい機体でしたので、ケーブルカーでしか行き来できない様な狭隘な地形で運用するには無理があると思います。しかもこの機体が実用に耐える完成度を得るのは戦後だし。
同時期にシコルスキーで実用化されたR-4は現代のヘリコプターの直系の子孫とも言える洗練された形状で運用の融通も利きそうですど、これは連合国側の話ですしね。

本当、なんでヘリなんて引っ張り出してきたんだろ…ハリウッド側の意向?



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2009年04月07日

ストライク・ファイター 1-3巻 感想 青山智樹

ストライク・ファイター―国籍不明機を撃て (ワニ・ノベルス)
ストライク・ファイター〈2〉国籍不明機を奪取せよ (ワニ・ノベルス)
ストライク・ファイター〈3〉F22スーパースター出撃す (ワニ・ノベルス)


1990年代はアジアの急速な経済発展が注目された時代で、世界の成長センターだなんだと持てはやされていた記憶があります。
そんな時代に書かれた本作品は、東南アジアの一隅に籍を置く多国籍企業オクテッド社によって開発された新型戦闘機アルトを巡って、アメリカや日本を巻き込んだ謀略戦が繰り広げられると言う内容。
なお、F22の名称がラプターではない件ですが、執筆された当時はまだ試作段階でスーパースターとかライトニングUとか呼ばれていたので、別にミスと言う訳ではないです。。


同じ時期に書かれた大石英司氏の「環太平洋戦争」〜「アジア覇権戦争」のシリーズが、民族問題や宗教問題など多くの矛盾を内包したまま急速な経済発展を遂げるアジア地域というのをテーマにしていたのに比べると、本作品はアジアの勃興の矛盾点にはほとんど触れられず、ただひたすらに当時の上向きの勢いのままに描かれたと言う印象が強い。

そもそも戦闘機の開発には莫大な資金が必要で、新興企業がおいそれと手を出せる分野でもありませんし、資金以上に政治的なしがらみが深く関わってくるのは我が国のFSX計画や台湾の経国戦闘機、イスラエルのラビ戦闘機の前例を見れば判る事。
もっとも、作者は国家と言う枠組みを超越した多国籍企業だからこそそうした政治的しがらみを排除して開発が進んだと言いたげな内容ですが、その辺はやはりナショナリズムの問題もあって無理かも知れない。
或いはアジア通貨危機も無く、アメリカ発の経済危機も無く、今現在もアジアを中心とした経済が上向きだったとしたら、国家意識なんてものはどうなったかはわかりませんけど。

日本がバブル崩壊以降未だに続く冬の時代の中で、マスコミと財界、そしてそれらに洗脳された連中はグローバリズムを声高に叫ぶものの、大半の国民は内向きベクトルの保守的な国家主義に回帰している(そのことの是非は問わない)のを見るに付け、経済がイケイケドンドンな時はナショナリズムは下火になり、逆に経済が不調の時は既得権益を死守すべくナショナリズムが燃え上がる側面は間違いなくあります。
それを踏まえてこの作品を見ると、やはり上で触れたように。アジアの経済がやがて数々の問題と直面する事となるであろう事までは考慮せず、執筆当時の状況がずっと続くものとして書いた気がしてならない。


他にもぱっと出の企業が作って碌なバトルプルーフも経ていない戦闘機が航空ショーで大人気になってみたりとか、アルト戦闘機の原型は元々日本が計画していたもののアメリカの圧力で没になった国産FSXの設計図が流出したものだとか、いろいろ釈然としない所がない訳ではありません。
しかしその辺の事は敢えて気にしないとしても、物語構成がひたすら右往左往するだけなのには致命的に疲れました。
ノベルス3冊分を費やして描かれた物語ですが、主人公槇原がアメリカ―オクテッド―日本の間をふらふらと漂うシーンをばっさりカットすれば半分の分量で纏まるし、もっと引き締まった話になったと思います。
特に余分なシーンばかり多くて、ラストでの養父とのドラマチックな空中戦シーンが思いっきりなおざりに流されているのには泣けてきました。

どうもこの作者は他のシリーズでも物語構成がちぐはぐなものが多いらしくて、あまり長編には向いてない人なのかも知れません。


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2009年04月04日

ちがった空 感想 ギャビン・ライアル

ちがった空 (ハヤカワ・ミステリ文庫 18-3)


1ページ目から地中海の抜けるような青空とギリシャの乾燥した空気が感じられ、作品世界に強く引き込まれました。
いや、実際の地中海の空がどんなのかは知りませんけど。あくまで脳内イメージと言うヤツです。


時代背景は1950年代末〜60年代初頭くらいでしょうか、まだ世界を揺るがしたあの大戦の余波が随所に残っていて、作品にも色々とそれが反映されているのも興味深い。
例えばある登場人物は…おっと、これはネタバレ直行便ですね。危ない危ない。
そういえば主人公の一人ケンがピアッジオの航空機に乗っていて、作中では機種こそ明記されていないですがガル翼やプッシャー式のエンジン配置の描写からしてP.166でしょうか。
初飛行が1957年、実用化に漕ぎつけたのは1962年らしいですから、この作品が発表された1961年にはまだ試作段階の域を出ていないし、作中の時代ではまだまだ初飛行にすら至ってない可能性もありますが、敢えて気にしない。
ラディカルな形状の試作機を引っ張り出してくるのは男のロマン。ラプたんより今は亡きYF-23に萌えるあの感覚にも近いのですよ。

それはともかく。
物語はもとRAFパイロットで、戦後は個人営業規模の空の運び屋をやっているジャックとライバルのケンが、宝物の争奪戦に巻き込まれていくという比較的シンプルな構成。しかし、以前読んだ深夜プラス1もそうでしたけど、比較的シンプルな大筋に見せかけて内部にはそこそこ細かい伏線が張り巡らされていたりするので油断は出来ません。
この作品が処女作と言う事で、後の作品に比べるとまだ伏線の数は少ない方みたいではありますが。

輸送機と言う比較的地味な機種をメインのギミックに据えていながら、そして輸送機の限界を逸脱したような無茶を一切やらかさずにいながら、それでいて航空冒険小説としての読み応えと面白さをきちんと持っているのが凄い。
また、この作品のメインであるジャックとケンの二人のキャラクター性がどことなく深夜プラス1のケインとロヴェルに重なるものがある事も面白いです。互いに相手のことを認めつつも、決して馴れ合わない微妙な距離感とか、皮肉や軽口の叩き合いとか。
まだライアル作品は2作目なのでよく判りませんけど、もしかしてこれがライアル作品の特徴と言うか、一つのカラーなのかと思ってみたり。



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2008年11月28日

虎口からの脱出 感想 景山民夫

虎口からの脱出 (新潮文庫)



張作霖爆殺事件の工作現場を目撃してしまった中国人少女麗華を連れて、奉天から上海への大脱出行。

追っ手は秘密保持の為に少女の口封じを狙う関東軍、総帥死亡の秘密を探る為にも少女の身柄を確保したい奉天軍。さらには蒋介石率いる国民党軍まで現れてまさに虎口状態。


前半…張作霖の乗った列車が爆破されるまでは、正直なところそこまで面白いとは感じませんでした。
僕自身この時代の大陸における勢力図が全く頭に入っていないと言うのが一番の理由で、関東軍の暗躍を見てもああそうなんだ…という程度の感想しか思い浮かばなかった訳です。
張作霖の爆殺に関しては今丁度コミンテルン陰謀論なんかが出てきていてホットな話題なんですけどね。
この辺は恥ずかしながら勉強不足なので、もう少し掘り下げて勉強したいと思います。興味のある時代ですし。


物語が大きく動き始めるのは中盤から。
陸軍少尉の西真一郎は吉田茂から、麗華に関東軍の工作に関する目撃証言をさせるために彼女を上海から船に乗せて日本へ連れて行くよう依頼され――ここから上海を目指して大陸縦断1600キロの大逃避行が始まるのでした。
関東軍の検問を突破し、人海戦術で迫る奉天軍の包囲網を突破し、MkW戦車を撃破して西達はひた走る。
逃避行の連れとなったアメリカ人運転手オライリーも、愛車(予定)のデューセンバーグのトランクからブローニングM1919重機関銃を取り出して人間銃座と化す大暴れぶりですよ。
国産の冒険小説は概して小さくまとまった作品が多い中、海外の作品と比べても引けを取らないスケールとケレン味が凄い。

物語の最後で、麗華が関東軍の工作を目撃するに至った諸々は吉田茂の仕組んだ事で、目撃者に全ての軍閥の注目が集まるようにして関東軍と奉天軍との直接的な衝突を回避させる策だったとか明かされるのも、複数の陰謀が交錯しあう冒険小説らしさを感じさせてくれます。
いや、名作との評判どおりに面白かったとです。
映画化されないかなあ。
もっとも、今の時期に映画化すると、張作霖の件を巡って反日だ何だと叩かれそうな気もしますが…。
イデオロギーって恐ろしいですからね。



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2008年10月26日

四十七人目の男[上下] 感想 スティーヴン・ハンター

四十七人目の男[上] (扶桑社ミステリー ハ 19-14) (扶桑社ミステリー ハ 19-14)
スティーヴン・ハンター
4594056970

四十七人目の男[下] (扶桑社ミステリー ハ 19-15) (扶桑社ミステリー ハ 19-15)
スティーヴン・ハンター
4594056989





「狩りのとき」で一応の結末を迎えたボブ・リー・スワガーの物語でしたが、たぶん作者の事情かなんかで帰って来ました。
ただし、今回はライフルはおろか銃の類は一切使わず、一振りの日本刀に全てをかけて悪を斬ると言う著しい番外編。
いわゆるスワガー・サーガの系譜として読むと面食らう可能性がありますが、事前にチャンバラものと知った上で読むのならこれはこれでなかなか面白い作品です。

武器がライフルから日本刀に変わっただけでなく、作品のの舞台もアメリカから日本へ。
太平洋戦争末期の硫黄島の戦いにおいて、スワガーの父アールの命を救った日本軍の矢野少尉が持っていた1本の刀を巡って現代版忠臣蔵とでも呼ぶべき物語が繰り広げられます。

もともと作者のハンター氏はオタク気質と言うか、銃器の描写がやたら細かくて拘りが感じられるのが特徴でしたが、今作では日本刀の描写が異常に細かくて参ります。
確かに日本刀は海外の刀剣に比べると製作に圧倒的に手間がかかっていて、だからこそ武器としてだけでなく美術品としての価値も高く評価されている訳ですが、やはりそこがハンター氏のオタク心の琴線に触れてしまった模様。
刀の美しさをここまでくどくどと書いた作品は初めて読みましたw


あとがきによると、ここ最近のアメリカ映画の低調ぶりに落胆し(ハンター氏の本業は映画評論家)、何か海外の映画にめぼしいものは無いかと物色している時に出会った「たそがれ清兵衛」に心を捉えられてしまったハンター氏は、それ以降時代劇映画にどっぷりハマってしまい、自分でも時代小説を書いてみたくなったそうです。
しかし本格時代劇を書くほど日本に関する資料も知識も無いので、現代を舞台にして時代劇のエッセンスを盛り込んだ作品を書く事にした――と。
その現代の日本の描写にしても、日本人の名前が変だったりして不思議の国NIPPONになっている訳ですが、まあこれはご愛嬌。
作者がいかに時代劇にハマっているかと言う部分はヒシヒシと伝わってくるので、そこを評価したい。


作中に於けるスワガーの一部行動は作者自身を投影した部分があるらしく、スワガーがブシドーを知る為に時代劇のDVDを見まくったり、日本酒を痛飲したり、焼き鳥やラーメンが気に入ったりするのは、まず間違いなく作者自身の姿だと思われます。
あと日本の性文化に眉をひそめるのは、南部の敬虔なクリスチャンゆえか。正直日本人から見ると清教徒の倫理観は堅苦しすぎて、君達何を楽しみに生きてるの?と思うところもあったり無かったり。

しかし日本人のエロ妄想力に言及していた部分に関しては、鋭いと言わざるを得ない。
やはり人種と宗教は違えども、オタクの魂に響く何かがあるのだと信じたいw



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2008年05月13日

魔弾 スティーヴン・ハンター

魔弾 (新潮文庫)魔弾 (新潮文庫)
スティーヴン ハンター Stephen Hunter 玉木 亨

新潮社 2000-09
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スティーヴン・ハンターのデビュー作。

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2008年04月20日

複葉の馭者 バーンストーマー 笹本祐一

複葉の馭者 バーンストーマー (ソノラマノベルス) (ソノラマノベルス)複葉の馭者 バーンストーマー (ソノラマノベルス) (ソノラマノベルス)
笹本 祐一 鈴木 雅久

朝日新聞社 2007-10-05
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2008年04月08日

鷲は舞い降りた ジャック・ヒギンズ

鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
ジャック ヒギンズ Jack Higgins 菊池 光

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2008年01月16日

ドラゴンセンターを破壊せよ〈上下〉クライブ・カッスラー

dra1.jpgdra2.jpg
ドラゴンセンターを破壊せよ〈上〉 (新潮文庫)ドラゴンセンターを破壊せよ〈上〉 (新潮文庫)
クライブ カッスラー 中山 善之

新潮社 1990-11
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2007年11月22日

極大射程(上下) スティーブン・ハンター

極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)
スティーヴン ハンター Stephen Hunter 佐藤 和彦

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極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)
極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)



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2007年10月14日

深夜プラス1 ギャビン・ライアル


深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))
ギャビン・ライアル

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2007年10月07日

アラスカ戦線 ハンス・オットー・マイスナー

alaska.JPG
アラスカ戦線アラスカ戦線
ハンス・オットー・マイスナー 松谷 健二

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2007年09月09日

極北のハンター(上下) ジェイムズ・バイロン ハギンズ

極北のハンター〈上〉極北のハンター〈上〉
ジェイムズ・バイロン ハギンズ James Byron Huggins 田中 昌太郎

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極北のハンター〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
ジェイムズ・バイロン ハギンズ James Byron Huggins 田中 昌太郎
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2007年09月07日

真夜中のデッド・リミット(上下) スティーブン・ハンター

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)
染田屋 茂 スティーヴン ハンター

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真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)
染田屋 茂 スティーヴン ハンター
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