2009年10月20日

這いよれ! ニャル子さん 感想 逢空万太



クトゥルフ神話に登場する人知を越えた存在の中でも特に嫌らしい意味でのトリックスターとして有名な、ニャラルトホテプを萌えキャラにしてしまえ!という冒涜的なコンセプトで描かれた宇宙的喜劇。
創元のラヴクラフト全集に飽き足らず、青心社の暗黒神話体系シリーズにも手を出してしまったような人、更には入手が結構困難な国書刊行会のク・リトル・リトル神話体系もバッチリだぜと言う(むしろラヴクラフト原理主義に陥らないためにも手を出す事を推奨)人ならば、きっとこれも許容できる。はず。
菊池秀幸氏の「妖神グルメ」みたいな珍作も読んだ事がある人ならきっとこれも理解できる。はず。
そうでない人はSANロールチェックしてください。そして正気度に余裕があれば手にとってみてください。


というかね、いきなりニャル子さんが宇宙人だ、ニャルラトホテプ星人だと言い出したときにはなんぞこれと思ったわけですよ。いくらクトゥルフ神話からインスパイヤされたにしても換骨奪胎著しいだろうと。
しかし、最後まで読むとちゃんとクトゥルフしていると言うか、作者の人は結構クトゥルー好きなんじゃね?というのがちゃんと伝わってくる。ニャラルトホテプやクトゥグァ、ルルイエにクトゥルーと言った大きなネタから、黄金の蜂蜜酒みたいな小ネタまでちゃんと仕込まれていてソツが無い。
ルルイエの屋台で黄金の蜂蜜酒が売ってるとかどんな皮肉だよ、みたいな。
また、「名状しがたいバールの様なもの」みたいに、御大のもって回った言い回しをネタにしているのも芸が細かくて好印象。
些か悪ノリしすぎている部分はあれども、クトゥルフ神話のシェアードワールド的な世界観の広がりを思えば、これもまた体系の末席に身を置いたとしても構わないかなと思います。


また、上で述べたとおり(表向きには)萌えジャンルではあるのですが、どこか醒めた視線で萌えそのものをギャグにしている部分があったりして、いわゆる萌え豚系とも微妙にターゲッティングがずれている点や、作品の元ネタにクトゥルフを選んだり、パロディを大量に仕込みつつもほとんど投げっぱなしにしている作風なんかも含めて、やや老成した雰囲気を感じるのが興味深い。
若さの勢いで書いたならもっとパッションが前に出ていても良いのですが、作中のニャル子さんよろしく掴み所が無くて何を考えて書いたのか今ひとつ判らない部分がある。それがまた思考回路が謎なヒロイン?とメタ構造を成していて…云々。

結論としては、うちにも一体ニャル子さん来ないかなーってことで。いや、宇宙の邪神ちっくな方々に狙われるのは御免ですけどね。


這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)
狐印
4797354143



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2009年10月08日

ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 感想 響野夏菜


1巻がダナーク村の長閑さを延々と描いていたからか、どちらかと言うとハートフル路線の作品だとばかり思っていたのですが、2巻に来て村の厳しい掟や村そのものの秘密の一端が描かれてみたりと、結構シリアスな物語になってきました。
少女向けレーベルのライトノベルは初めてで、ちょっと比較対照が無いから何とも言えないのですけど…普通のライトノベルになって来たなあ、と。
もちろん決してネガティブな意味ではなくて、最近の男性向けライトのベルのようにやたらパロディに走ったり、萌えをネタにしたりといった悪ふざけが無いぶん素直に読めますし、僕個人としても大いに楽しんでるのは事実なのですが、少女向けと言う事で想像していた乙女要素とかそういう類のものがあんまりないなーと。
たぶんこのシリーズがイレギュラーなんだと思ってますけどね。


その辺の事は置いといて、やっぱりファンタジー、それも比較的気軽に楽しめるライトファンタジーはいいなあ。
魔法の原理とか"あっち"の世界と"こっち"の世界の相関関係とかそういうのは適度に流しておいて、印象的なシーンの描写の方にリソースを割いていますから、とにかく場が連想しやすい。
腰を据えて重厚なハイ・ファンタジーを読むのも好きではありますが、仕事の合間の休憩時とかに気軽に読めるものではないですからね。

ただ一つ心残りなのは、せっかくあっちの世界で命懸けの冒険をやったと言うのに、イズーとビーの関係があんまり進展した気がしない事でしょうか。吊り橋効果くらいあってもいいだろう…。
やはりビーからしたら相手がお巡りさんというのが心理的な壁になっているんだろうか。
この辺、シリーズ最終巻までにどう変化していくのかはマイ注目点ではあります。


ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 (コバルト文庫)ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 (コバルト文庫)

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2009年09月22日

ダナーク魔法村はしあわせ日和―都から来た警察署長 感想 響野夏菜

ダナーク魔法村はしあわせ日和―都から来た警察署長 (コバルト文庫)
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ドが付く田舎、ダナーク村の警察署に所長として赴任する事となった首都警察の捜査官イズーと、一癖も二癖もある村人達とのハートフル・コメディ・・・ なのかどうかはよくわからん。
田舎を舞台にした作品にありがちなゆるゆるとした癒し路線と言う訳でもなく、かと言って都会と田舎のギャップに慄くだけの作品でもなく。
正直ジャンル別けはちょっと難しいです。ですが、一つ確実に言える事は"この作品は文句なしに面白い"。


作品の面白さの一因として、素直な展開というのが大きいと感じます。
最近は何かとトリッキーだったりパロディが盛り込まれていたりする作品が沢山ありますが、この作品の場合はひたすら直球。と言っても展開が平板という意味ではなく、無理に捻ったりウケを狙ったりしていないと言うか。
だからライトノベルというよりはジュブナイルに近いかも知れません。
1巻はダナーク村とそこの住人たち、そしてイズーがダナーク村に赴任する切欠となった事件の説明がメインだったので、まだまだイズーと村の突撃魔女ビーの関係とかは進展も何もあったものじゃないですが、それについては2巻以降に期待したい。

また、舞台となるダナーク村そのものが持つ魅力もなかなかのものです。
のどかで平和でそれなりに活気もあって、余所者に好奇の目を向けたり村独自のローカルルールがあったもりするけど基本的には牧歌的な世界。殺伐とした要素もほとんどありません(皆無という訳ではないが)し、いいなあこういうの。
あとはこうした設定を、続巻でどう膨らませていったのかが気になるところです。



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2009年09月03日

ガンズ・ハート5 硝煙の鎮魂歌 感想 鷹見一幸

ガンズ・ハート〈5〉硝煙の鎮魂歌(レクイエム) (電撃文庫)
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ラノベという制約、というか、ラノベ読者層の制約の中、何とか仮想戦記らしさを滲ませて最後まで書きあげてくれたた事に感謝。
おそらくラブコメ要素が足りないとか心理描写が出来てないといった見当違いな意見もあった事と思いますが、この作品が目指した部分を考えると妥当な出来でしょう。作品のジャンルによって必要とされる要素は変わってくる訳ですから。

最後の最後と言う事で、無防備都市宣言とか執筆当時ブームだった愛国者要素をふんだんに盛り込んでいるのがなんとも当時の風俗を忍ばせて懐かしい気分にさせてくれます。些か荒唐無稽にデコレーションされているものの、カルタたちの隊が東域軍の後方を攪乱して兵站を絶つとかちゃんと戦術しているのも面白かった。
シンルーの立てた戦争プランからして、西域国の主要工業都市を占領して都合の良い条件での講和に持ち込むという短期決戦志向のもので、軍事技術が基礎レベルで劣っている東域国らしいものでしたし、最後の巻だけに作者の趣味が結構前に出ている気がする。

全5巻を振り返ると、どうしても対教団との戦いを描いた3巻がどうにもこうにも緊迫感が無くて今ひとつでしたけど、スタンピードに立ち向かう前半巻と国家間の戦争を描く後半巻と、エズオル相手だと陣地構築と新型兵器開発がメインになったり、東域国相手だと敵との戦術的駆け引きがメインになったりと、戦う相手によって主題が変わってくるのもメリハリが利いたと思います。
今ひとつやる気の無い雰囲気のイラストはともかくも(笑)、小説としては結構楽しめたかな。



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2009年08月19日

ガイア・ギア 1-5巻 感想 富野由悠季

宇宙世紀0203年を舞台としたガンダム(なにやら権利関係の問題でガンダムと言うタイトルではないけど)作品。

主人公アフランシがかつてのシャア・アズナブルの遺伝子データを元に復元された一種のクローンである事が過去の作品との関連性となっていますが、作品の中ではシャア≠アフランシとして描かれています。
もっとも、この作品がスタートした当時の一般的なシャア像と比べれば別人ではあるものの、後に制作された逆襲のシャアにおける程好くヘタレなシャアには割と近い気がする。
と言うのも、Wikiによるとこの作品の初期タイトルは「機動戦士ガイア・ギア 逆襲のシャア」だったそうですから、何をか謂わんやです。

それはともかくシャアとアフランシの一番の違いは、個人的にはマン・マシーン(この世界におけるモビルスーツ)にあると思うんだ。というのも、アフランシが駆るガイア・ギアというMMはなんとカラーリングが白。
逆に、選ばれた者達だけを地球に帰還させ新帝国の建設を目論む武装組織マハのパイロットにして、アフランシと色々と生臭い意味での宿敵となるウル・ウリアンが駆るMMブロン・テクスターはカラーリングが赤。
そう、色が逆なんです。
赤くないシャアなんて認められない!!
百式はどうなんだと言うと、ほら、あれはクワトロ・バジーナであってシャアではないから。


作品自体は偏った人種イデオロギーやら選民思想やらを掲げるどこかの第三帝国みたいな敵マハと、アフランシ率いる抵抗組織メタトロンとの戦いを描くと言うオーソドックスなスタイルですが、この作品で描かれたいくつかの要素が後の作品に反映されているのが興味深い。
例えば上記のアフランシと逆シャア版シャアの類似性をはじめとして、汚染された北海沿岸に大量に魚や鯨の骨が堆積しているシーンは、後にVガンダム第37話「逆襲ツインラッド」でも描かれています。
また、ヨーロッパ地区の不法居留者という設定もVガンダムで度々使用されており、こうした部分を探していくのもまた楽しかったりします。
また、ガイア・ギアのデザインが、腰アーマーを廃したりヒールが高くなっていたりと、00系のMSの原型かと思わせるスマートなデザインなのもポイント。


1話辺りのページ数が少ない雑誌連載だったためにやや展開の駆け足感は拭えませんが、ガンダム好きならやっぱり読んでおくべきタイトル。問題は絶版状態&作者に復刊の意思が無い事もあって、全5巻そろえるのはかなり至難の業である事か。

ガイア・ギア〈1〉 (角川文庫)
ガイア・ギア〈2〉 (角川文庫―スニーカー文庫)
ガイア・ギア〈3〉 (角川文庫―スニーカー文庫)
ガイア・ギア〈4〉 (角川文庫―スニーカー文庫)
ガイア・ギア〈5〉



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2009年08月15日

カラクリ荘の異人たち 2 〜お月さんいくつ、十三ななつ 感想

カラクリ荘の異人たち 2 ~お月さんいくつ、十三ななつ~ (GA文庫)
ミギー
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大家さんの過去にちょっと泣けてきたのはたぶん年齢のせいだ。
太一と采菜の関係が全くの足踏み状態となっていて、ラノベなのにラブコメ的なもの無しで、いいのかこれとか思っていたけど、大家さんの切なく優しい想いはそんな業界のお約束なんか軽く吹き飛ばしてくれた。
きっといつもの飄々とした雰囲気からは想像もつかない、普段はそっと心の奥底に仕舞い込んでいるものだからこそより一層センチメンタルな気持ちにさせてくれるのだと思いたい。
逢いたい人はいる。でももう逢えない。

序盤は一気に謎がばら撒かれて面食らうばかりでしたけど、中盤で伏線が繋がり始めてからは一気に謎が明かされていき、物語の構成としても良かったと思います。日本的な風習や季節感を積極的に取り入れているのも、古きよき時代へのノスタルジーを誘って味わい深い。
これがまたミギーさんの童話的なイラストとマッチしているんだ…。


太一の成長物語としてはやや弱かった気がするけど、メガネのあの人の意外な才能が垣間見えたり、カラクリ荘の紅一点であるところの古都子さん(お露さんは…まあ…汗)が積極的に活躍している思ったら、実はあんな事でこんな事だったりと、住人たちの見せ場は絶賛増量中。
なんだか部活の仲間達的な連帯感が羨ましいですね。
こういう作品がもっと増えてくれると嬉しいかも。


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2009年08月02日

刀語 第三話 千刀・ツルギ 感想 西尾維新

刀語 第三話 千刀・ツルギ
take
406283619X



一度は投げ出したシリーズなのですが、最近若干ながら精神的に余裕が出来たと思い込んでいるのと、ブッコフの105円棚で発見した事の2つの理由により読んでみました。

やっぱりというかなんというか、露骨な文字数稼ぎのための"ダッシュ"の多用や、迂遠な言い回しが気になるちゃ気になるんですけど、しかしこれは西尾氏の問題ではなくて、毎月1冊刊行なんて阿呆な企画を組んで当時売れっ子だった西尾氏にデスマーチを強いた講談社サイドの問題。
もちろん西尾市にしても断る事だってできたとは思いますが、J-POPと並んで賞味期限が極めて短いラノベ界にあっては、売れる時にどれだけの本を出せるかが全てなのを考えると、おいそれと断れるものでもないか。
10年前人気だった、そして一般文芸へと移籍せずラノベ界に留まったラノベ作家が今何人生き残っているか?と言う事を考えれば、もう非難は出来ない。

されはそれとして、3巻ではこれまでの力押し的バトル中心だったのと比べると、七花やとがめの内面に踏み込んだ描写が増えていますし、敦賀迷彩も過去の宇練銀閣等と比べると随分人間味があるキャラクターに仕上がっています。
そういう意味で良くも悪くも普通の小説に近づいてきたなあと。
"地形効果・千刀巡り"に代表されるトリッキーなバトルもなかなか思白かった。
この出来なら続巻も読んでもいいかなあと思えます。

まにわには…正直どうでもいい。


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2009年07月27日

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い 感想 西尾維新

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)
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今更感は強いですが戯言シリーズです。
いつかは読んでおくべきと思ってタイミングを見計らっていたのですが、西尾作品がいわゆる尖がった人たちの手からアニメや漫画と言った比較的ライトな層へとシフトし始めた今なら周囲のノイズに惑わされる事なく読めるなと判断したので、手に取った次第。
まあそれ以上に文庫化されて手に入りやすくなったと言うのが大きいですけどね。

さて。
孤島と密室と言う随分古典的なガジェットを使ったミステリー作品……だと思いますが、なんかミステリーと言うカテゴリーに当てはめるのに抵抗を感じてしまうのは何故だ。
もともとミステリーをそんなに読んでない人なので見当違いなことを書いてしまうかも知れないと事前に断った上で書きますが、肝心のトリックが出来すぎていると感じた。
出来過ぎていると言うのはやや語弊がありそうですが、つまるところまず回答ありきで、回答にあわせて逆算的に肉付けをして行ったような、無理矢理なトリックすら何とか型に合わせて嵌め込んだような、いや、型の方を削って嵌め込めるようにしたどことなく居心地の悪いまとまりを感じてしまった。

もっと端的に言うと、"現実的"という制約の中で最大限奇抜なトリックを練るのではなく、奇抜なトリックを受け入れる異世界を創造してしまったという感じ。
SFに例えて言うと、サイエンスフィクションではなくスペースファンタジーの方だと言えばたぶん一番判り易いかと。


もちろんこの作品の核は謎解きではなくキャラクターにあるので、トリックが強引だとか展開が非現実的だとか言うのは全くの的外れなのは理解している。
むしろこれは論理にこだわり本格と言う敷居を設けて、先鋭化しつつあるミステリーに対するアンチテーゼなんでしょう。
思えば国産SFにはこうしたエポックメイキングなアンチテーゼが登場しなかったため、科学マニアに気に入られない作品は「これはSFじゃないよ」と酷評される排他的なムードが蔓延して進化の袋小路へと追い込まれました。
音楽で言うと、ロックは死んだという言葉の解釈も、僕は早引きだ超絶技巧だという技術面のマニア向けばかりに特化して行くうちに進化の袋小路へと嵌った事を指しているのだと考えます。

そういう視点で見ると、こうした従来の枠に囚われない作風の作家が登場し、若い読者層を新規開拓しているミステリーと言うジャンルは本当に幸せです。古典派の人や本格派の人から見てどう見えるかは別として。
絶滅した生物は弱かったから絶滅した訳ではありません。多様化できなかったから環境の変化に耐えられなかったのです。
ミステリーと言うジャンルは本当に多様性に富んでいる。俄かSF好きとしては、そんな状況がなんとも羨ましかったりするのです。





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2009年07月26日

悪魔のミカタ 13巻 It/MLN 感想 うえお久光

悪魔のミカタ (13) (電撃文庫 (0954))
うえお 久光
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ザ・ワン編完結にして悪魔のミカタ1学期完結編。
いわゆる第一部完と言う奴です。

さて、そんな感じで物語の節目となる13巻ですが、なんだかサクラ様がチート化して人狼をちぎっては投げーのして、おっさんは行方不明になって、主人公は申し訳程度に最後に出てきて…と、何だこれって話でした。
たぶん外伝とかに位置付けねなら、物語としてはそれなりに面白かったので素直に楽しめたんだと思いますけど、本編としてみるとコウとザ・ワンのラストバトルはほとんど蛇足レベル。一応知恵の実食ってもらわなきゃなんないのでなんとかお膳立てしましたと言う感じです。


まあしかしサクラ様の人外ぶりは半端ないね。2巻か3巻かで肉食獣的な片鱗は見せていたけど、まさか体内に解毒能力のある寄生虫を大量に飼い、獣を自由に操りジェノサイドを好むというデタラメな台風みたいな存在だったとは…いや、正直驚いた。
もちろん、そうした固体としての強さは、ザ・ワンのような群体にはあまり効果ないだろうし、実際ザ・ワンの手下の人狼達を殺戮はしたものの、ザ・ワンと拳を交える事はなかったのですが。
ザ・ワン自体はオードのネットワークにエラーを発生させる事で分断・弱体化と言う事なんですが、エラーの元になった麻薬中毒者なんて欧米には腐るほどいるじゃないか。今までそういう手相と無縁で来れた事の方がすげえよ。中毒者は不快な匂いがするっても、飢餓状態だったり悪意があったりしたら今回みたいな事はわりと簡単に発生しそうだけどなあ。むう。


なんだか狐につままれた感じで終わったザ・ワン編。面白かったかと聞かれると面白かったよと言えるけど、満足したかと聞かれると…ぐぬぬ。
ともあれMLNは今後も出てくるか否かは気になるところ。



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2009年07月20日

疾走!千マイル急行 感想 小川一水

疾走!千マイル急行 (ソノラマノベルス)
長澤 真
4022738200



祖国滅亡の危機を救うべく、援軍を求めて大陸を疾走する豪華機関車TMEと少年少女たちの物語。
僕は小川一水作品をそんなに読んでいる訳じゃないのですが、この人の作品からは強烈なまでの理想主義と、青臭いい正義感を感じます。
そして、そうした作者のポリシーのためにはご都合展開すら恐れない開き直りも。

もちろんそれはネガティヴな意味では決して無く、むしろ物語の中でまで必死で背伸びしたような、世間を斜に見た様な程度の低い中二病オーラを感じたくねえよと常々思っている僕みたいな人にはわりと心地よく感じる事もある。
度が過ぎて理想の押し付けになると若干拒否反応が働く事も無きにしろあらずですが、幸いこの作品ではその域には到達していない。

冒険あり、戦闘あり、友情あり、陰謀あり…と、娯楽作品としての要素はこれでもかと詰め込まれていて、500Pちょいのノベルスではあるけど退屈する事無く読めます。
特に陰のある少年キッツとテオとの若干屈折した友情や、TMEを追うレーヌスの装甲列車グロードン急行との息詰まる砲撃戦は本作品の大きな見所の一つ。


最後に故国を捨てて新しい国家を建設すると言う結末は、ある憂国系書評サイトで散々酷評されていましたけど、小川先生らしい〆方じゃないかと思います。この人はどうも、様々なしがらみを乗り越えたところにある本当の意味で個々が尊重しあえる自由と言うものに対して相当強い憧憬を持っている気がするので。
決して国家への愛や忠誠を頭から否定している訳じゃないと思うんよ。

まあ、その辺はその人の基本思想に関わってくる部分なので、伝わる人には言わなくても伝わるし、伝わらない人には百万回繰り返しても伝わらないし。
所詮そういうものです。


ともあれ、20世紀初頭を思わせる世界観と鉄の塊が発散するオーラは実に良かった。



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2009年07月15日

悪魔のミカタ <12>It ストラグル 感想 うえお久光



まだまだ続くよザ・ワン編。
結局この巻もコウたちの出番が無いままに進行し、次の巻へと続くとなりました。
流石に3巻への持ち越しとは、引っ張りすぎじゃないのか…。

展開についても基本的には1巻の流れとさほど変化が無く、強いて言うと吸血鬼に従う道を選んだ者達と、逆らう道を選んだ者達との相克が描かれたのが差異といえば差異程度。
前巻のラストで思わせぶりに登場した海藤もほとんど出番無かったしぃー。

個人的には昇達よりも、吸血鬼の手を逃れて潜伏中のサクラ達の逃亡劇をメインにして欲しかったなあ。
そっちの方が展開にメリハリがあるし。
まあその辺に関しては、反抗期を描く事を好むうえお先生の作風にマッチしないという問題もあります。
また、今回も携帯ロケットランチャーを「銀色に光る」とか頓珍漢な知ったか描写していたりする例のアレが発動して、潜伏サバイバル生活の模様をデタラメに描かれるのも考えものな訳で。

基本的にうえお先生は物事を調べて描くタイプの作家ではありませんからねえ。
ちなみに携帯ロケットランチャーに限らず、戦場で歩兵が提げて歩く装備品は、大概にして光が反射しないように加工されています。銀色に光るランチャーなんか提げていたらキラキラ輝きまくっていい目標ですよ。


何はともあれ第一部遺すところ1冊のみ。どんな結末を見せてくれるやら。


悪魔のミカタ <12>It ストラグル
うえお 久光
4840226024




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2009年07月08日

ガンズ・ハート〈4〉硝煙の彼方 感想 鷹見一幸

ガンズ・ハート〈4〉硝煙の彼方 (電撃文庫)



正直なところ3巻の出来があんまりにもあんまりなもので、ちよっと幻滅していた部分はあるのですが、今回はちょっと盛り返してきたかなという感じ。
懲罰に失敗した教団は、西域国の技術進歩に危機感を募らせ、均衡をとる為に東域国に技術援助を行い、戦争になるよう仕向けるのが今回の筋書き。
元々資源の乏しい世界に二つの国が存在すれば、衝突は不可避とは言え、裏で糸を引く教団の嫌らしさが実に良い。
本当、前巻のあの悪い意味でマンガみたいなドタバタ戦争ごっこは何だったのやら。

東域国に教団から供与された大砲は鋳造砲なんだそうですが、鉄砲が発達している割に大砲の開発が遅れているというのはそれはそれで面白いです。例えば日本だと、室町期に石火矢が伝来していましたし、鉄砲も日本に伝わるや改造されて大筒の様な小口径の砲へと進化して行ったのですが、この世界ではそれが無い。
これはおそらくは教団によって平和が保たれている世界ゆえに、攻城戦を含む規模の大きな戦いが起きず、結果鉄砲は護身用及び狩猟用としてしか発展しなかったのでは…と妄想してみる。


この作品は主人公のケリンがややチート気味であり、逆に敵は概してマヌケであるという傾向があるのですが、今回東域国にシンルーを登場させる事でややバランスを取ろうとしている節が感じ取れます。
作品のテンションは魅力的なライバルにある訳で、ここは是非シンルーにもケリンの裏をかくような知略の冴えを見せて欲しいところ。国境線となる河の渡河作戦では早速ケリンに騙されたりしてましたが、それでも判官贔屓な人間としてはシンルーを推したい。

…というか、次の巻で完結みたいたけど、大陸を二分する戦いにちゃんと決着付けられるのかな?



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2009年06月30日

けんぷファー 5巻感想 築地俊彦

けんぷファー〈5〉 (MF文庫J)
築地 俊彦
4840120420




すげえ久しぶりに読んだけんぷファーだけど。
キャラクターの名前と大体の構図を思い出すのに割と時間がかかってしまいました。
特に複雑な設定があるわけでもないのに…いや、むしろシンプルだからこそ一度雑多な記憶の引き出しの中に仕舞い込むと探し出すのが大変なのかもしれません。

それはともかくとして。
いきなり主要面子集まってのお泊り会なのはオギった。とは言ってもナツルは自分が実は男だと言う事を佐倉さんには隠している状態なので、正体を隠蔽することに必死でよからぬ企みを巡らせる暇なんてある筈も無い。
もっとも、読者的には相変わらず一体佐倉さんのどこが良いの?状態なので、ナツルの焦燥と逡巡はただひたすらに滑稽なものにしか見えないのが悲しい。
メインヒロイン?が一番魅力無いってどうなのよ。いや、僕にとってのメインヒロインは紅音なんだけど。メガネ図書委員は人類の遺産(レガシー)であり、失われる事は人類にとって大きな損失である。


後半の展開はモデレーターとケンプファーの関係に踏み込むと見せかけて、その実第三勢力的な新色ケンプファーの襲来で有耶無耶になった感じ。
核心に踏み込むと見せかけてより混迷の度合いを深めていくという手法ですね。
以前読んでいた頃とは精神状態も違ってきて、今現在の感覚的にはバトっているよりも紅音や雫会長とグダグダやっている方が楽しく感じるようになって来たのですが、果たしてこの作品はどこへ向かおうとしているのか。




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2009年06月29日

悪魔のミカタ 11巻  It/ザ・ワン感想 うえお久光


悪魔のミカタ(11)


これ悪魔のミカタなの?と首を傾げてしまうくらいに作品の雰囲気が違う11巻。

主人公である筈のコウは全く登場しないどころか(ある少年の語る"伝説"には名前だけ登場する)、アトリや小鳥遊、真嶋と言ったメインキャラクターも全く登場せず、かろうじて普段は影の薄い舞原サクラが登場はするものの、狂言回し役ですらなく、つまるところ外伝か別の作品かと思ってしまう訳です。


とは言えこの流れは前巻ラストからの「ザ・ワン」編である事は間違いなくて、いわばプロローグにまるまる一冊使ったと言う前代未聞の超展開。
しかもページ数もなかなかのもので、一般的なラノベよりは三割り増し程度のボリュウムだったりします。
うえお先生のヒネクレぶりは相変わらず凄い。

プロローグとは言え単品でも楽しめるくらいに物語の構成はしっかりしていて、和歌丘を襲ったザ・ワンの脅威を吸血鬼モノとゾンビモノを融合させ、そこにうえお風味の捻りの効いたスパイスをふんだんにぶっ掛けたような独特の味わいの群像劇で描き出しています。
ザ・ワンが意識の集合体の様な存在であり、全にして個・個にして全であるだけに、実はこの特定の主人公の登場しない群像劇的な描き方は正解かも知れません。
なにせ今度の戦場は和歌丘そのものですし、ザ・ワンにあがらう者達もまた人間の矜持という意識のもとに集合した存在でないと、この相手は一人でどうこうできるものでもなさそうですし。

うん、とか言いつつ次の巻でコウがちぎっては投げーのちぎっては投げーのやっちやう危険性も、もちろんある。なにせうえお先生だけに、読者の期待の斜め上を衝いてくるのはよくあることですからね。


面白いのは間違いなく面白い巻だったけど、次の巻の展開如何で評価はどの方向にも転がりそうだなあ。


悪魔のミカタ・魔法のカメラ感想
悪魔のミカタ・インヴィジブルエア感想
悪魔のミカタ・パーフェクトワールド平日編感想
悪魔のミカタ・パーフェクトワールド・休日編感想
悪魔のミカタ・グレイテストオリオン感想
悪魔のミカタ・ストレイキャットミーツガール感想
悪魔のミカタ・ストレイキャットリターン感想
悪魔のミカタ・It ドッグデイズの過ごしかた感想
悪魔のミカタ・It ドッグデイズの終わりかた感想
悪魔のミカタ・It スタンドバイ



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2009年06月23日

やってきたよ、ドルイドさん! 感想 志瑞祐



アイルランドから日本の中学に転校して来たドルイドの娘シャレイリアさんが、超自然的な魔術でもって騒動を引き起こす、割と基本に忠実な作品。
雰囲気的にはフルメタルパニックの短編に近いかなあ。軍事オタクを超自然的な魔術の使い手に置き換えた感じ。

もともとライトノベルは楽しくてナンボ、面白いは正義!を基本とする僕にとっては、このあまり深く考えず流されるままにイカレた世界を楽しめる作品は非常に心地よかったです。
文章がどことなく最近の神坂一さんに近くて、かつてのラノベブームを知っている人間にはそこはかとなく懐かしい気分に浸れるのも良い。
変に気取った方向に進みつつある一部のラノベとは好対照で、久しぶりにラノベの基本形を見た気がした。

また、懐かしいだけでなく主人公の白川夏穂が程好く変態だったりと最近の流行のパターンもしっかりと押さえてあって、トータルとしてかなりポイントの高い作品と言えます。
強いて言うと極一部存在感の無い、単なる解説役のキャラクターがいるのが気になるかな…でもこれは今後このキャラの当番回を作れば済む問題なので、たいした事じゃないですかね。


基本仕様がドタバタコメディなので、作品としてのライフサイクルは決して長いとは言えませんが、続けられる限りは続巻出して欲しいです。
でもアイルランド人のシャレイリアさんが憎きイングランドに復讐する様な展開はカンベンな。
作中でお子様ランチの上に乗っているイギリスのユニオンジャック旗を忌々しげに放り捨てるシーンがあったけど、実際問題として今もまだ険悪なムードは残っているんだろうか。彼女が物心付く頃にはIRAも活動停止していたと思うんだけど。
いずれにせよこの辺の要素はスパイス程度に用いるぶんには異論はありませんが、出来ればあまりラノベでは触れないほうがいいかも。


やってきたよ、ドルイドさん! (MF文庫J)
志瑞 祐
4840124558



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2009年06月05日

ミミズクと夜の王 紅玉いづき 感想

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)
紅玉 いづき
4840237158



刊行当時随所で絶賛されていた本作品。当時から関心はあったのですが、僕はなにぶんヒネクレ者ゆえに世間がマンセー一色だと絶対に「いやちょっと待てよ…」となってしまうのは目に見えています。
なので、世間が落ち着いて冷静に読める環境が醸成されたらその時に読もう…と思ったまま、今の今までその事を忘れてしまってましたw


で、感想。
これから皮肉交じりにも取れる所感を述べる事になると思いますが、作品そのものを頭から否定してアンチの塊になっている訳ではないという事の表明として最初に書いておきますが、この作品が面白かったかそうでもなかったかと言うと、はっきりと面白かったと言えます。
その点については全く異存なし。

ストーリーの主軸を余分なデコレーションを排して述べるならば、奴隷の不幸な少女がナイーブな夜の王(魔王)に出合って恋をして、その後優しくて人格者な騎士に出合って、色々あった末に自分が運命の人と信じる夜の王の元へと帰っていく話。
実にわかりやすいストーリーとキャラクター配置、現世的な幸せに背を向けてでも恋に走る刹那的な結末…これはまさに、紛うかたなきケータイ小説のテンプレートではないか。

さらに、物語の終盤で多用される「ありがとう」と「ごめんなさい」という情緒的な単語。
この二つの言葉は素朴であるが故にストレートに情緒に響くキラーワードあり、泣きを取りたいならひたすら連呼しておけば間違いない…という位のものです。
それを熟知した上で、逐次投入の愚を犯す事無く最適のタイミングで一挙に投入する手腕は本当に凄い。


あとがきにて作者は「安い話を描きたい」と語っています。
あとに残らなくてもいい、光のようにぱっと輝く話。高尚でなんかなくていい話。
この作品を評するならまさにその作者の言葉そのまま。自分で書きたかったタイプの話を何のてらいもなくきっちりと書き上げるとは、とても新人とは思えないプロ意識ではありませんか。
ここまで一部の隙も無く娯楽性に特化して描ける才能が素直に羨ましい。

何の雑味もなくどこまでもピュアな恋愛至上主義。作中に登場した物語を彩るあらゆるギミックが、"恋する女の子は何よりも素敵"という一点に収斂される思い切りの良さ。
この作品に対して深読みなんて愚の骨頂。
作者が徹底したプロ意識で書き上げた「安い話」には、読者も徹底して「安い感想」で応じるのが礼儀というものです。
無駄な深読みなんて作品に対するレイプ行為に等しいし、内容が浅いなんて批判は的外れもいいところ。


だからこそ僕は安い言葉で、心から賞賛したいです。
「素晴らしい!感動した!」
と。


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2009年06月03日

ガンズ・ハート 3 硝煙の栄光 感想 鷹見一幸

ガンズ・ハート (3) (電撃文庫 (0964))



2巻の締め括りは個人的に見事だったと思います。
エズオルのスタンピードに際して、教団の禁忌を破り連射可能な新式ライフルが開発&配備された事、そしてそれによって危機を脱する事に成功した事。
スタンピードの被害で喪失した国力を立て直すために、東域国の肥沃な大地を新兵器でもって奪い取る誘惑が鎌首をもたげてきた事。
スタンピードの脅威から国を救った新型銃を製作したミントは救国の女神として祀り上げられているものの、このまま彼女の開発した銃がきっかけの一部となって大きな戦争が勃発したら…。

と、そんな緊張感溢れる〆を見せてくれた2巻だっただけに、3巻では一体どんなハードな展開が描かれるのかと期待して読み始めたとですよ。
したら、2巻の〆のくだりは無かった事にされて、古代の進んだ技術を管理独占する教団が、"懲罰"の名の下に西域国への軍事行動を開始すると言う話に摩り替わっているじゃないですか。
でもまあ、それはそれでアリかなあと思って更に読み進めたとですよ。
したら、教団側は古代の超兵器を保有しながらも徹底した教条主義で運営されているため、状況の変化に対応する能力やや戦力運用の幅が全く無いという、ありていに言えば馬鹿の集団だったというところでずっこけた。
内部情報も西域国に筒抜けだし、よくこれで何千年も世界を管理してこれたもんだ。


そんな訳で、教団との戦いはほとんど茶番劇みたいな展開が延々と続くものとなり、2巻のあの一瞬の油断が死を招く緊迫感は皆無。これはひどい。
まあ、一つ期待をするならば、今回の軍事行動で教団側が使用した多脚砲台、それに搭載されたバルカン砲の薬莢が西域国に回収されたので、それを参考にいよいよミントは金属薬莢を使用する銃を開発するかも知れません。
2巻時点で三脚に固定し、バレルに水冷ジャケットを巻くところまで進化していたので、金属薬莢の導入によって初歩的な機関銃が生まれる可能性も。
ベルト式給弾はハードルが高そうですが、保弾板を使用したオチキス機関銃タイプならまあ何とかなるかも知れません。

今回の教団との戦いでまた幾つか新兵器が開発されたし、これも東域国との大戦争に向けた準備段階なのかなあ。
ともあり派手なドンパチに期待してます。


ガンズ・ハート1 硝煙の誇り 感想
ガンズ・ハート2 硝煙の女神 感想


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2009年05月27日

ガンズ・ハート〈2〉硝煙の女神 感想 鷹見一幸

ガンズ・ハート〈2〉硝煙の女神 (電撃文庫)



グレンダランの街に押し寄せるエズオルの大群を迎え撃つガンズ・ハート第2巻。
人海戦術よろしく地を埋め尽くす数のエズオルに対する悲壮な防御戦が描かれ、近年のライトノベルの流れからは大きく逸脱したものではあれど、これはこれで面白かった。

攻め手側――エズオルが類人猿程度の存在であるため、互いに知略を尽くしてという戦いではありませんが、しかしその数は下手な策略など無効化してしまうほどのもので、いくら強固な城砦に守られた都市といえど守る側に有利な点など何一つ無いバランス感が実に良い。
防御戦闘の醍醐味は悲壮感と絶望感にあると言えます。


対エズオルの切り札として、ミントの父が設計していたハーモニカ・ピストルならぬハーモニカ・ライフルを完成させるくだりは良かったのですが、そこから極々短期間でダブルアクション化され、更に水冷ジャケットを被せて三脚に据えつけて…と異常な進化を遂げるのは厄い。
黒色火薬を使っている以上銃腔内に燃えカスが溜まり易い宿命からは逃れられないので、銃身が焼けるほど連射したら弾詰まり起こすぞ…。
とは言え、ハーモニカ式が始めて登場した時に、チャンバーと銃身との閉鎖が構造上甘そうだなあと思ったら、ちゃんとその事を作中でも触れていたのには感心。
短期間でこれらの銃が開発され量産された流れには些か疑問は感じる部分があれど(むしろ急造で製造可能なノルデンフェルド砲等の方が篭城戦に似合っている)、まあそこはラノベだしと言う事で。


終盤の市街戦もなかなかスリリングで面白かったし、なんだかんだ言いながら楽しく読めました。
ラストの引きで、ミントが開発した新式銃が戦争の引き金となる可能性を示唆しているのも良かった。武器は身を守る道具あり、同時に相手を殺す道具でもあるという基本部分ですよね。


ガンズ・ハート1 硝煙の誇り 感想


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2009年05月20日

ベン・トー3 感想 アサウラ

ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
アサウラ
4086304678




気高き狼達の饗宴三度。

スーパーマーケットを戦場に変え、己が意地と誇りを拳に乗せて半額弁当争奪戦を繰り広げる漢達(女の子もいるけど魂は漢)の物語も、何故か3巻まで来ました。
昨年度のこのラノでは文句なし仏契でこの作品がトップだろと確信していたのに、こともあろうか(以下自粛)。
まあ、漫画でも何でもそうですけど、女性がとっつきやすい作品じゃないと頂点を目指すのは難しいと言う事ですね。



オルトロスが還ってきた。
双頭の猟犬の異名を持つ双子の姉妹沢桔梗と鏡が、三年ぶりに戦場(スーパーマケット)に還ってきた。
小学生の頃から狼として半額弁当争奪戦に参加し、そのキャリアは10年以上。双子ならではの連携攻撃はあらゆる狼を跳ね除け、かつて狩り場としていた町では無敗を誇った彼女たちが、新たな伝説を刻むべく還ってきた――。

と、威勢良く書きましたけど、佐藤達の街に現れたオルトロスは何故かメインの狩り場となる店舗を定めず、散発的、ゲリラ的な狩しか行わない。その割に佐藤やかつてガブリエル・ラチェットの一員として鳴らした二階堂には挑発的なアピールを行う。そんな彼女たちの不可解な行動の裏には、三年前、かつて彼女たちが狩り場としていた町でのある出来事が暗い影を落としていた、と言う話。


あとがきによると元々全編後編の分冊形態を目論んでいたそうですが、担当氏に「あはは、死ねよ」と一刀の元に切り伏せられ、泣く泣くあちこち削って何とか1冊に纏めたとの事。
そのせいかどうか話の密度にムラがあって、前半はやや冗長な印象。正直、"死神"の異名を持つ井上あせびさんはいてもいなくても物語として成り立つような…。
一応彼女から蔓延し始めた風邪によって、今回槍水先輩を戦場から降ろす=佐藤を独り立ちした狼として戦いの場に立たせるという流れは出来てましたけど、別に冥土インあせび印の風邪ウイルスじゃなくても良い訳でして。
つうか独り立ちしてようやく二つ名を貰ったと思ったら、「変態」かよ。

とは言え中盤以降はこれまでに無くベン・トーらしい、まさに狼達の物語として相応しい展開となっていました。
特に二階堂を佐藤のライバルにして盟友に据える事で漢密度が高くなったのが、この作品には幸か不幸かやたらマッチしているのが厄い。白粉が良い感じに茶々入れてましたけど、まあ、なんとなく白粉に同意できる…か?
頭では納得出来るが前立腺では納得できねぇ。


読了して最初に思い出したのは、今から10年位前のまだまだ格闘ゲームがそれなりに人気だった時代。
当時対戦におけるタブーが色々と取り沙汰されていたのを覚えています。
ハメ技は論外なので置いておくとして、順番待ちがいる時には連コインは禁止だとか、負けたからと言って台に八つ当たりする奴は屑だとかその他諸々。
その中に、強い相手に乱入されたからと言って、ゲームを放棄して席を立つのは最低の行為というのがありまして、今回の話はそれを基に物語として膨らませた雰囲気です。

と言うか、狼同士の情報網があったりとか、目茶苦茶当時のゲーセン事情っぽい。昨晩どこそこの店に○×(地元で有名なプレイヤー)が現れたとか、今度はどの店に行くと言っていたとか。
そして実際○×が来ると、その店を根城にするプレイヤーが対戦しにぞろぞろ集まってきたり…。
当時ゲーセンのバイトしていたので、そういうの幾度と無く見てきました。もう格ゲーは愚かゲームそのものから足を洗ったので、最近の状況は知りませんけど。
ラノベ読んでいて経験的な面で懐かしく感じたのは初めてだよ…。


ベン・トー 感想
ベン・トー2 感想

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2009年05月12日

悪魔のミカタ 10 It スタンドバイ 感想 うえおえ久光

悪魔のミカタ〈10〉It スタンドバイ (電撃文庫)
うえお 久光
4840224323



前の巻のあとがきにまだまだIt編は続くよみたいなことを書いていた気がするし、確かに10巻のサブタイトルにItの文字は冠されているんですけど、実質的には8-9巻と続いた流れの延長線上には無い気がする第10巻。
舞原家の戦闘員ジィと、グレイテストオリオン編以降なにやら妙な能力に覚醒しつつある綾にスポットが当たっていますが、インヴィジブルエア編の奈々那のエピソードなんかも含まれていたりして、実質的には短編集のスタイル。

アニメや漫画言うと、ラストバトル直前に嵐の前の静けさよろしく平穏な日常を描くエピソードが挟まれたりしますが、たぶんそれに近い。平穏と言いつつジィは人を斬る事で悩み抜いたりとか、一体どこが平穏よという気もしますけど。
短編集でありながら先の展開に向けた伏線と思われるものも多数仕込まれていていますが、それがどういう形で物語に影響し始めるのかは現時点では不明。
ただ、コウと綾の未来はかなり厄介な事になるのだろうという予感だけは強く感じます。


それでジィのふんどしですが…。
うん、確か一昔前に局地的に盛り上がったよね、ふんどし娘萌え。
ググって見たら今も局地的に愛好されているみたいではありますが。うえお先生がこういう要素を作品に取り入れているというのがすげえ意外です。いわゆる萌えとかには無縁で我が道を行くタイプの作家さんだと思っていただけに。
あるいは、局地的だったからこそ取り入れただけで、もしふんどしがシマシマ並に一般化してしまっていたら取り入れなかった気も。だってうえお先生良い意味でへそ曲りっぽいし。
固ゆでな主人公を描く人は得てしてヒネクレ者。そしてそう言う主人公をカッコイイと感じる読者もまたヒネクレ者。
もちろん自分のことです、はい。

いきなりふんどしの話でアレですけど、本当は奈々那の「アウグーリ!」にちょっと微笑ましい何かを感じたのですが、こういう甘酸っぱい話はいかにもラノベラー好みで、たぶんもう記事で触れた人多いだろうなと感じたので、敢えてジィのふんどしの話にしました。
こういうところがヒネクレ者。

悪魔のミカタ・魔法のカメラ感想
悪魔のミカタ・インヴィジブルエア感想
悪魔のミカタ・パーフェクトワールド平日編感想
悪魔のミカタ・パーフェクトワールド・休日編感想
悪魔のミカタ・グレイテストオリオン感想
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悪魔のミカタ・ストレイキャットリターン感想
悪魔のミカタ・It ドッグデイズの過ごしかた感想
悪魔のミカタ・It ドッグデイズの終わりかた感想
悪魔のミカタ・It スタンドバイ


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