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スティーヴン・ハンターのデビュー作。
大戦末期にナチスが計画した「ニーベルンゲン作戦」を巡り、東部帰りの武装親衛隊中佐レップと、OSSのリーツ大尉が火花を散らす物語です。
ハンターと言えば狙撃小説というイメージがすっかり定着していますが、デビュー作もやっぱりと言うか、狙撃ものですw
最近の作品に比べると構成が荒削りで、登場人物の書き込みも若干足りない感じですが、スワガー・シリーズの叩き台になったと思われる部分が随所にありまして、ファンには嬉しい所。
特に序盤のデミヤンスクでの圧倒的なソ連軍相手の戦闘描写は、後の「極大射程」や「狩りのとき」でも良く似たシチュエーションが使われていて、ハンター作品における一つの燃えポイントになっています。
1日で約300スコアってどんだけwという気もしますが、ウラウラと吶喊して来るソ連兵相手ならありえるかな?
・・・と、基本的には楽しく読めたのですが、やはり気になるのは、レップの人間性が今ひとつわかり辛い事でしょうか。
武装親衛隊中佐、狙撃の名手、職務に忠実な男、と言うのは判るのですが、彼が関わる作戦に関与した人間を次々と口封じしてゆく様や任務達成の障害になると判断すると友軍すら平気で攻撃するその苛烈さ、ユダヤ人を処刑する際のある種の陶酔した様な心理、そして終盤での利己的な判断・・・それぞれの要素がバラバラで、どうにも一人の人物として繋がりません。
物語の半分近くはこのレップ視点で進行するのですが、上記の様に人となりに掴み所がないため、どうにも感情移入できない部分があります。
もっとも、レップは本作品の主人公扱いではありますが、あくまで倒されるべき敵役でもあるので、読者が理解に苦しんで距離感を感じてしまう位が丁度良いのかも知れませんが。
あと、ホロコーストが題材に使われていますので、ユダヤ陰謀説側に立つ人には受け入れがたい部分があるかもしれません。
個人的にはスワガー・シリーズを何冊か読んでから読む事をお勧めします。
ラベル:書評