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魔のGW進行も一段落付きましたので更新再開です。
連休明けの一冊目は・・・。
以前紹介した鷲は舞い降りたと並び賞される第二次大戦を舞台にした名作ですね。
援ソ輸送船団FR77をムルマンスクまで護衛すべく出動した(さされた)巡洋艦HMSユリシーズと、その乗組員達のあまりに過酷な運命を描いた戦争小説。
ムルマンスクへの道中ドイツ軍はUボートや航空機、重巡洋艦等を繰り出してこれでもかと攻撃してきますが、独軍側視点は全く無いのが特徴的。
大抵この手のジャンルの作品は、「敵」と「味方」を峻別すべく主人公側視点では正義感と愛国心に燃える姿を描き、敵側視点では覇権主義や権謀術数を巡らせる姿を描きます。
または、それらを180度入れ替えた皮肉な視点で描く作家もいますが、基本的には「敵」vs「味方」の構図からは抜け出ていません。
しかしこの作品は敵側の視点を一切排する事でステレオタイプな対立構図の戦争ものとは違う、過酷な運命に立ち向かう男達の物語として完成している様に感じます。
過酷さについては、それはもう全編通して過酷なので全てを挙げる事は出来ませんが、例えば船団を守るために落伍した輸送艦を処分する事になるくだりは、その衝撃的な展開が強烈に印象に残っています。
また、ドラスティックな死に方を与えられた一部の乗組員達はともかくも、対空銃座に着いたままいつの間にか凍死していた少年兵などには戦争の悲哀を感じさせられます。
死傷者数はとにかく膨大でラストは悲劇的な作品ですが、作者の命を軽視しない姿勢は良く伝わってきます。
最近は命を軽く描く事がより男性的であると考えているとある作家が絶大な支持を得ていますが、この作品を読んでしまうと、幼稚な中学生の背伸びとしか思えなくなりますね。
面白いと言うとはちょっと違うけど、絶対に読んでおくべき作品です。
ラベル:書評