山田 正紀

日本が分断国家となっていれば・・・と言うテーマで描かれたもう一つの戦後史。
敗戦から数年。日本国内は食糧難とインフレと労働争議で未だ混乱の中にありました。
そんな中、学生や労働者による自己陶酔的な左翼活動に胡散臭さを感じていた水島は、ある映画会社の大量解雇に単を発し、軍の介入まで引き起こした争議(モデルは東宝争議)を契機に、南千島に建国されたばかりの日本群島人民共和国に身を投じる決意をします。
一方、水島の友人の中西は、水島の行動に一定の理解を示しながらも実家の中西財閥の後継者の道を選び、水島と敵対する立場に。
そして、水島と中西が出会うきっかけともなり、2人に愛されてもいた女性響結花は、政治思想とは関係の無い、自らの力だけで身を立てるデザイナーを志す。
この作品は、かつては同じ理想を抱いた筈の3人が、東西冷戦のうねりの中で別々の道を歩む事になる物語です。
主に販売戦略上仮想戦記にカテゴライズされてはいますが、これはどちらかと言うと青春群像劇ですね。
実際1巻では戦闘シーンはほんの僅かでしかなく、大半の頁が上記の3人の若者達の葛藤に割かれています。
しかし・・・この作品が書かれた当時、日本はまだまだバブルに酔いしれていた訳ですが、今これを読むと、程度の差はあれ戦後の混乱期と現代が若干被って見えます。
食料品や生活必需品の高騰、噴出する労働問題・・・。バブル崩壊〜失われた10年は、まさにこの国にとっては第二の敗戦だったんですねえ。
自称保守系左派ですが、平和平和、平等平等と念仏の様に唱え続けていれば世の中が良くなると思っているお花畑サヨクには吐き気を催す僕的には、水島にかなりシンパシーを感じざるおえません。
何故か文庫化されてなく、入手は多少困難なシリーズですが、是非最後まで読みたいですね。