2008年04月08日

鷲は舞い降りた ジャック・ヒギンズ

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ジャック ヒギンズ Jack Higgins 菊池 光

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このブログを始めて結構経ちますが、ようやく取り上げる事になりました、数多の冒険小説の頂点にいまだ君臨し続ける不朽の名作「鷲は舞い降りた」。
未読の人でもタイトル位は聞いた事があるんじゃないかと思います。


ナチの方針に反する行為を行ったとして、懲罰部隊で特攻紛いの作戦に従事させられていたシュタイナー中佐。
突然彼に下った任務は、分隊を率いてイギリス本土に降下し、英国首相チャーチルを拉致、もしくは殺害する事。
過酷な訓練を経て、遂に英国本土に降下したシュタイナー達ですが、潜伏先で水難事故に遭った子供を部下が助けようとした事から自分たちがドイツ人であることが露見してしまい・・・。

と言う内容。
戦時を舞台にしてはいますが、いわゆる仮想戦記の類とは趣を異にするスパイ小説的な展開が特徴的。
また、ヒギンズ作品の特徴かもしれませんが、登場人物が一部を除いて豪く人間味溢れる方達として描かれています。


隊長のシュタイナーからして、懲罰部隊に送られた理由というのが、ユダヤ人の少女を庇った事だったりしますし、部下は河に落ちた子供を助けようとして命を落とす。

実は大昔に映画版を見たとき、この辺りを「見るに耐えない偽善」と感じた訳ですが。


この歳になって、そもそも「善」とか「正義」とか「博愛」とか、そういうものは普遍の価値観などではないと言う事をようやく理解しました。
「偽善」と言う言葉は、対の「普遍的な真実の善」とセットとして考えねばならないのですが、普遍的な真実の善なんてものは存在しないのですから、当然偽りの善もありえません。
善とか正義とか博愛とかは物事の副産物として生じるものであって、それ自体が主体としては存在しえないのです。

それを踏まえた上で作中での彼の行為を見れば、博愛や正義などでは決して無く、単に自分の目の前で自分の規範に合わない事態が発生したから、行動を起こしたと言うだけで、それをして善を騙る訳では決して無いのが判ります。

これは、シュタイナーの部下が現地の子供を助けた件にしてもそうですし、IRA闘士としてシュタイナーに協力する皮肉屋のデヴリンも、祖国を裏切る事と承知でデヴリンを救った村娘モリイもそう。皆、自分の信念に基づいて行動しているだけです。
そこに善悪の構図を持ち込むと、物語の味わいまでスポイルしてしまう危険性が高いので注意ですね。


上記の価値観が理解出来ないと、あまり面白くない作品かも知れません。
逆に言うと、理解できればキャラクターに入れ込めて、ものすごく楽しめます。
デヴリンカッコイイよデヴリン。名前はアレだけどさw


ちなみに、上で「一部を除いて」と書きましたが、その「一部」というのが、シュタイナー達と戦う事になる米軍コマンドの皆さん。シュタイナー達の壮絶な最後を彩る為の小道具としてしか扱われていません。
もう少し米軍側の描写が欲しかった気がします。
それだけが心残り。
ラベル:書評
posted by 黒猫 at 21:36| Comment(5) | TrackBack(0) | 冒険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
名作ですね。
小説と映画で、シュタイナーの設定が若干違っていた気がします。
小説はロシア戦線の英雄ですが、確か映画ではクレタの英雄だった気が。。。。
ご存知の様に、クレタ島への空挺作戦「メルクール作戦」は ドイツ降下猟兵にとって 最大で ほぼ最後の作戦でしたが、それだけに クレタの生き残りで英雄という設定は クレタ作戦以後 歩兵としてしか扱われなくなっていった降下猟兵の行末を暗示しているかの様な部分も感じ取りました。

史実で ナチズムや ユダヤ虐待に批判的なドイツ軍人はいましたし、上層部には ヒトラーが名門出身でない事実を疎む幹部もいましたし。
ある意味、シュタイナーという架空の主人公は特別な存在ではないと思えたりもします。
「第2次世界大戦のドイツ=ヒトラー=ナチ」といった型にはめられた思考から離れると、この物語は 味わい深いですね。
Posted by 飛鳥 at 2008年04月09日 14:52
飛鳥さんこんばんは。
原作でもシュタイナーの経歴紹介に、コリント運河での橋梁奪取作戦とクレタ島のマレメ飛行場での戦いを経験した記述がありますよ。
その後東部戦線でレニングラード、スターリングラードと転戦という事で、生きている事自体が不思議な人物です。

>クレタ作戦以後 歩兵としてしか扱われなくなっていった降下猟兵の行末を暗示しているかの様な部分も感じ取りました。

降下作戦の損害の大きさに伍長殿が尻込みしたとかなんとか・・・。
逆に米軍は大戦後期は空挺作戦にやたら力を入れていた気がします。

>史実で ナチズムや ユダヤ虐待に批判的なドイツ軍人はいましたし、上層部には ヒトラーが名門出身でない事実を疎む幹部もいましたし。

Posted by at 2008年04月10日 19:57
途中で誤って送信を押してしまいました。

>史実で ナチズムや ユダヤ虐待に批判的なドイツ軍人はいましたし、上層部には ヒトラーが名門出身でない事実を疎む幹部もいましたし。

ヴァルキューレ作戦なんてものもありましたしね。ユダヤに関してはドイツ以外の国でも日常から差別的な行為は行われていみたいです。

>「第2次世界大戦のドイツ=ヒトラー=ナチ」

当時のドイツは国防軍に至るまでヒムラーの手下みたいに扱われていた時代がありましたよね。

不謹慎ながら、個人的にヒムラーと言う人物はダークヒーロー的な意味で興味があるのですが。
どこかのヒロ●ト似のプリティフェイスに萌え(死滅)
Posted by 黒猫 at 2008年04月10日 20:03
初めまして。この小説は私も非常に気に入っている作品です。
シュタイナーと部下の人情の厚さには涙が出てきます。もっと冷酷な人間だったら、上手く立ち回れたでしょうに。

ガンダム的には「ガンダム0080ポケットの中の戦争」のモチーフの1つですね。
サイクロプス隊のシュタイナー隊長のフルネームは現在では「シュタイナー・ハーディ」となっていますが、初期には「クルト・シュタイナー」と記載している文献が散見されておりました。まんまですね。(^_^)
Posted by ゼファード at 2008年04月10日 21:35
ゼファードさんこんばんは〜。

この作品が好きな人が多くて嬉しい限りです。

>シュタイナーと部下の人情の厚さには涙が出てきます。もっと冷酷な人間だったら、上手く立ち回れたでしょうに。

デヴリンたちを逃がす為に単身囮になるシーンと言い、最後にチャーチルの影武者相手に躊躇してしまったシーンと言い、人間味を感じさせる箇所が多かっただけに、あのあえない最後は衝撃でした。

>ガンダム的には「ガンダム0080ポケットの中の戦争」のモチーフの1つですね。

おお、確かに言われてみれば。
やっぱり高山さんの趣味なんでしょうかね〜。
元ネタをゲームや他のアニメ、漫画など、同系統のジャンルにしか求められない、クローズドな作品が最近は増えていますが、やっぱり視野の広い人の製作した作品の方が長く愛されている気がします。
Posted by 黒猫 at 2008年04月11日 21:42
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