旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫 よ 4-1) 萬屋 直人 メディアワークス 2008-03-10 売り上げランキング : 3808 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
まず名前が喪われ、続いて存在そのものが喪われてゆく原因不明の「喪失症」により、静かに滅びつつある世界。
そんな世界を銀色のスーパーカブに乗って旅を続ける少年と少女。
『世界の果て』を目指す彼らと、旅の途中で出会う様々な人たちとの物語・・・。
うーん、これ読んでて真っ先に連想したのが、ネビル・シュートの「渚にて」です。
デウス・エクス・マキナの介在する余地の無い、ただ淡々と進行する物語は人によっては好き嫌いが大きく分かれそうですが、個人的にはかなり好きです。
必要以上に語り過ぎない節度が感じられて、作品自体に品があります。
で。
上で触れたように基本的には淡々とした、それでいて薄皮一枚剥がすと恐ろしい悲壮感が溢れてきそうな物語なんですが、それに対して、絶妙のアクセントを加えているのが主人公である少年と少女(二人とも名前は既に喪われて存在しない)です。
この二人の関係については良くある恋人未満と言うヤツで、掛け合いもスプラスティックな、ライトノベルとしては割とありがちなものなんですけど、これが淡々とした物語と合わさると、吃驚する位に互いを引き立てあっているんですよ。
もし少年少女がもっと落ち着いたキャラだったとしたら、もし物語がもっとエモーショナルな語り口だったとしたら、この完成度はあり得なかったでしょう。
もしこれを狙ってやったとしたら、作者はなかなかの曲者ですw
あと、最近のラノベの常として、続編が出る可能性は捨てきれません。
個人的にも二人の旅の続きは気になります。
しかし、この作品の場合主人公が二人とも喪失症に罹っているだけに、症状の進行や最終的には存在の消滅と言う部分を抜きに描く事は出来ません。シリーズを重ねれば重ねるほど悲壮感が増すのは避けられない。
そう考えると、あんまり悲しい話は読みたくないかなあとも思える訳で。
1巻で完結しておくのが無難かも知れません。