月世界へ行く (新装版) (創元SF文庫) ジュール・ヴェルヌ 江口 清 東京創元社 2005-09-10 売り上げランキング : 61574 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
SFの原点ですね。
本来はこの本の前に「地球から月へ」という作品があり、前編後編という形で1つの物語を成す形になっているのですが、こちらは未訳。
「地球から月へ」は物語としてあまり面白くないとのことが未訳の理由らしいですが。
こればかりはいくら解説で「現代の視点では退屈」と書かれても、自分の目で確かめてないので何とも。
で、「月世界へ行く」ですが。
現代のSFの様に、未来のスーパーテクノロジーを想定して・・・という手法ではなく、あくまで既存の科学の延長線上で何とかしようと工夫されているのが実面白いです。
作者の故郷フランスでは15世紀頃から兵器としてロケットが用いられていたのに、ロケットでもって宇宙に行くと言う発想が使われていないのは興味深いですね。
宇宙に行くのに大砲を使った理由ですが、これは恐らく序章に書かれている「綿火薬」がポイントだと思います。
この作品が書かれた当時は、ニトロセルロースはまさに最先端科学の結晶でした。
従来の黒色火薬に比べて燃焼効率が高い綿火薬なら、人を宇宙まで飛ばす事だって出来る、不可能を可能にする夢のスーパーアイテムだと考えたとしても不思議はありません。
原子力が最先端科学だった50〜60年代に、原子力で駆動する自動車だとか、原子力で半永久的に飛行する飛行機だとか言った素晴らしくデンジャラスなシロモノが色々と考案された事例もまた、当時の人たちが原子力を夢のスーパーアイテムと考えたからです。
(余談ですが、某ガンダムのある水中モビルアーマーは、原子炉の冷却水をそのままウェータージェットに使って推進力を得るというこれまたデンジャラスな設定だったと記憶しています)
最新の発明は時として人の目を曇らせるという好例ですね。
・・・と、そういう部分はあるにせよ、宇宙なんてファンタジーの世界でしかなかった当時に無重力の概念が書かれているだけでも素晴らしいと思いますし、砲弾がピンポイントで月に到達出来るように数式を立てて計算されている所もリアリティを感じます。時代が時代なのでエーテル宇宙論ではありますが、それは致し方ない事。
唯一心残りは月面着陸シーンが無かった事。
当時の人が考えていた月面世界がいかなる物かはとても興味があっただけに、月軌道を周回しただけで地球に帰還してしまったのは、寸止めを食らわされた気分です。
もっとも、自らの推進力を持たない砲弾で月に降りてしまうと、二度と地球には戻れなくなる訳ですが、でも見てみたかったなあ、大気のある月面。
ラベル:書評