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第二次世界大戦における帝国陸海軍航空隊の戦いの記録。
主に題材を空対空戦闘を中心に書かれていますので、比率としては中期以降の本土防空に関する記録が多くなってます。
機体上面に斜め上方に向けて機関砲を取り付ける「斜銃」でもってB-29に対抗しようとした小園司令率いる302空や、大戦末期に特攻が常套戦術と化しつつある状況下であくまで特攻を拒否し、通常攻撃で戦果を挙げた(そして多大な犠牲を払った)海軍の芙蓉部隊、北千島での米海軍やソ連軍との戦い、異形の戦闘機震電の開発物語などが収録。
まず斜銃ですが、一見子供じみたアイデアながら、そこそこの効果があるのが実証されていたりします。
そのせいで、小園指令は単座戦闘機の雷電にまで斜銃を取り付けさせたりしましたが、単座戦闘機の斜銃は殆ど役立たずのデッドウエイトにしかならなかったとかなんとか。
なお、本書では触れられていませんがドイツにも似たような事を考えた人がいたらしくて、シュレーゲムジークと呼ばれる斜銃を装備した各種夜間戦闘機が邀撃任務に当たっていました。
ただ、こちらも単座のBf109Gに搭載した型での目立った戦果はありません。
続いて芙蓉部隊。
過去に散々特攻は強制だった云々と聞かされていた僕にとって、その存在を知った時には物凄く驚きました。
小林よしのりの本なんかでは特攻隊の手記の勇ましい部分だけ抜粋して、かつ検閲の件は完全スルーして特攻は美しき自発的意思であり強制ではないと書かれていました。
そんな子供騙しのプロパガンダをやらなくても、芙蓉部隊という存在そのものが特攻強制説を覆していると思うのですが、なんらかの意図があってスルーしたのか、単に無知だったのか・・・。
ともあれ、こういう部隊の存在は非常に意義深いと思います。
あと印象的だったのは、巻末にオマケ程度に収録されたF4Fワイルドキャットの真価に迫る章。
F4UやF6Fに比べると、とかくやられメカの印象が強い同機ですが、実は隠れた名作機だったと言う話。
太平洋戦線では運用の拙さで初期に損害を蒙り、挽回の機会が訪れる前に新型機に交替して第一線から下がった為にあまり目立った戦果はありません(それでも零戦に勝利したケースもあるし、頑丈さには定評があった)。
しかし、イギリスで使用されたワイルドキャット(マートレット)はBf190Gとの空中戦でも勝利を収めており、決して侮れない機体である事を実証しています。
グラマン鉄工所の渾名は伊達じゃない。
身軽さばかりに特化して装甲が薄い日本機や、変に新機軸を盛り込んで空回りする事がある独軍機に比べて、米軍機は保守的ながらも高い信頼性と、何よりも少々被弾しても落ちない頑丈さが素晴らしい。
兵器の本質を一番的確に突いていると思います。
うん?何かワイルドキャットの件についてはかなり熱く語ってるな俺ww
全体を通しての感想ですが、この著者はやや零戦に対して意地悪過ぎる気がします。
確かに世間で言われる零戦無敵神話なんて大半が虚飾ではありますが、零戦が苦戦したケースだけを持って来て、実は大した事の無い飛行機だったという論法は乱暴です。
まして、大陸でのデビュー戦だけが唯一の大戦果なんて言うのは、かなり個人的感情が含まれているとしか。
その辺、差し引いて読む必要はありそうです。
毎年、航空自衛隊の航空祭シーズン開幕でトップを務めるのが恒例となっている静岡県の静浜基地。
ここには 小さいながら芙蓉部隊の資料室があります。
航空祭当日は 芙蓉部隊を偲んで資料展示も行われます。
厚生棟前には、芙蓉部隊の慰霊碑と、彗星に使用された熱田エンジンのエンジンブロックだけになった残骸が展示されています。
シーズントップを務める静浜基地航空祭ですが、錆びた熱田エンジンの残骸に気づかれる方々が 何人いることか。。。。
>F4F
当時の世界常識から鑑みて、別格の存在であったのには 当時のグラマン、いや、米国の兵器開発思想に感心します。
WWUの開戦時には、列強各国の主力戦闘機は1000馬力弱。
零戦もBf109もスピットも エンジン馬力からすれば同レベルだったのに、F4Fだけ それよりも200馬力の余裕をかまして1200馬力エンジン。
戦闘機のスペックの比較だけでなく、何よりも やられても脱出して生還して戦い続ける。
ドイツのエースしかり、米国・英国のエースしかり。
そんな基本をしっかりと実践していた戦闘機がF4Fの評価を高めていると思います。
>ここには 小さいながら芙蓉部隊の資料室があります。
ああ、いいですね〜。行ってみたいです。
なにぶん僻地民ですから、なかなか資料館に足を運ぶ機会が無くて。
そういえば芙蓉部隊の彗星は日本軍としては異例の高稼働率だったそうですね。
一般部隊の惨状に関しては、エンジンそのものの工作精度もさることながら、整備そのものにも問題があったのかも知れません。
米軍機というと、やはり頑丈さと余裕のある設計に尽きると思います。それらは日本機には欠落した物ばかりです。
末期に開発された機体は防弾も考慮していたみたいですが、なにぶんにも気付くのが遅すぎるという話ですし。
あと人使いの荒さも米英に比べると酷くて、無駄にパイロットを損耗した感があります。
もっとも、人使いの荒さについてはドイツも負けず劣らずですが。
それにしても、F4Fは欧州でもそれなりに活躍しましたし、P-39もソ連では中〜低空の対戦闘機戦で活躍しましたし、F2Aに至ってはフィンランドで鬼神の如き大活躍ですし、もっと米軍機は評価されるべきだと思います。