2008年03月13日

砂の女 安部公房

砂の女 (新潮文庫)砂の女 (新潮文庫)
安部 公房

新潮社 1981-02
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これは結構、読む人の年代によって感じ方が変わって来る作品な気がしますね。


海辺の、砂に埋もれかけた部落に囚われた主人公。
彼は砂丘に掘られた深い穴の底に建つ一軒家に住まわされ、部落が砂に埋もれてしまわない様に、砂掻きの労働力として働かされる。
働けば、水や酒、煙草などが「配給」され、働かなければ「配給」が止まる。

そこには自由は無く、ともすれば奴隷にも思える扱いかも知れません。
しかし、直接的に暴力を加えられる事は無く、また、主人公には一人の女も与えられます。


穴の底の一軒屋という設定は、束縛の象徴でしょうか。
そして、外の世界は自由の象徴。
砂に埋もれかけた部落という舞台装置を使っているだけに、どこか現実離れした感覚がありますが、これは現代の社会の縮図にも思えます。

少なくとも主人公は、束縛を受け入れる事が出来れば食うに困る事は無く、伴侶も与えられるのです。
穴の底と言う特殊な状況ではありますが、構図は社会の仕組みと何ら代わりません。
対して、束縛を拒否すれば自由は得られますが、我が身を担保するものは何一つありません。
これもまた、社会の仕組みと同じもの。


・・・と言う訳で、表面的にはどこか突飛無い、それでいて閉塞感と狂気に満ちたように感じられる作品ではありますが、本質は至ってまっとうなもの。
新自由主義とか自己責任とか労働の多様化とか、そういう浮ついたモノが幅を利かせる現代だからこそ、価値のある一冊だと思います。


なお、この本を読んで共産主義的だ、アカだと感じた人は、まだ自由の本当の恐ろしさを知らない幸せな人です。僕が断言します。
ラベル:書評
posted by 黒猫 at 23:11| Comment(2) | TrackBack(0) | ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
すごく懐かしい作品です。

>読む人の年代によって感じ方が変わって来る
本当にそうだと思います。
読んだのが18歳か19歳ぐらいの時だったので(マイブーム安部公房だったのです、この時期)深読みできず、漠然と作品の中に描かれているシュールな状態を受け止めていました。
今読んだらきっと他の事を感じると思います。
黒猫さんのレビューを読んで、読み直ししたくなってしまいました(^^)。
Posted by ちょこ at 2008年03月13日 23:52
ちょこさんこんばんは。
安部公房入門用にと知人に勧められて読んでみました。
難解な言葉や哲学の引用など、衒学的な部分を排した作風というのが気に入りました。
小難しい≠高尚を地で行く所に痛快さすら感じます。

>漠然と作品の中に描かれているシュールな状態を受け止めていました。

歳のせいか仁木の迷いがよく伝わってきて困りますw10代だったら、彼が最後に取った行動はなかなか理解できないかも知れません。

また何か安部作品読むと思いますのでヨロシクです。
Posted by 黒猫 at 2008年03月15日 19:20
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