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ドンパチ作家大石英司氏のファンタジー路線第三作目。
一応「神サイ」「ぼくここ」と、この「女神」で三部作完結なんだそうです。
ある市民文化ホールに怪談めいて語り継がれてきた25年越しの「予約」。
その日が迫るにつれ、運命の歯車がゆっくりと回り始める――。
いや、何が凄いって、一見バラバラに散りばめられた個々のエピソードが、恐ろしい位にぴたりと1つに収斂される構成。この構成の巧さはやはり、作家としてのキャリア故なんでしょう。
舞台は広島県尾道市と言うことで、いわゆるしまなみ街道ですね。作者のブログによると、実際に夏頃に現地取材を行ったらしく、レンタル自転車の描写が妙に細かいのには笑いました。
その一方で、しまなみの情景描写に関しては今一歩だった気もします。
僕はしまなみの対岸側の県の住人で、実際何度も橋を渡ってますから、あの描写でも充分雰囲気は伝わってきましたが、そうでない人には瀬戸内の雰囲気は伝わりにくかったかも。
あと、今回の物語は瀬戸内の海みたいに静かでゆったりと進行するんですが、もう少し起伏があっても良かったのでは・・・?と思いますね。
例えば、重い過去を背負い、殺人まで犯してしまったある女性のエピソードなんかは中盤の山場の一つだっただけに、さらりと流れてしまったのは勿体無い。
主人公の身神にしても、彼女の一族の宿命に関する部分がいきなり最後に提示された為に、ちょっと戸惑いを感じましたし。これ、例えば子供の頃の母親との記憶をなど断片的に散りばめて描けば、あの「能力」を含めて、もっと自然にまとまった気がします。
例えるなら、「ぼくここ」の冒頭部分の様に、全てが明かされてから読み返すと、ああ、こういう事だったのか・・・と理解できるような、そんな仕掛け。
と、色々描きましたが、バラバラの伏線がジグソーパズルのように組み合わさってゆく様はカタルシスすら感じますし、難病やワーキングプアなどの社会問題も上手く盛り込んでいて、作品としては充分面白いものでした。
ちなみに大石氏はシニカルな作風と、ブログや2ちゃんねるでの袈裟懸けに斬り捨てる様な発言から、ぱっと見辛辣な人と思われがちですが、よく読むと社会問題に対する論調は最近流行の上位承認には絶対擦り寄らないスタンスで、いわゆる一つのツンデレさんです。
そんなツンデレぶりを前二作以上に強く感じました(笑)。
ラベル:書評