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日本人が書いたクトゥルーものということで、不安と期待半々で読みました。
物語は、今やアニメやラノベでもすっかりお馴染みの魔導書「ネクロノミコン」を記したとされる狂えるアラブ人、アブドル・アルハザード(アルハズラッド)を狂言回しにして、古代中東の歴史をクトゥルー神話と絡めて描くと言うもの。
中東の歴史にはあまり詳しくないからかな、黙示録的な展開にも比較的違和感を感じずに読めましたし、グロテスクさや恐怖感を煽る描写もかなり高いレベルで、読んでて生理的な厭々感を存分に味わえました。はい、そういう点では良く出来た小説です。
・・・なんですが、クトゥルー系としては、いささか黙示録的過ぎやしないか。
クトゥルー系の物語の醍醐味とは、「日常と薄皮一枚隔てた深淵」にあると思うんですよ。
少しずつ、薄皮がはがれて行くにしたがって、その下から顔を出す深淵の狂気。
それがこの作品には無い。
古代のペルシャやエジプトが舞台という時点で、既に非日常なんですが、そこにアルハザードと言う胡乱な人物を噛ませている為、読者は身構えてかかる。
最初から深淵が見えてしまっている訳です。
だから、恐怖演出はグロテスクな描写に頼らざるおえません。
また、奉仕種族にすぎない「深きものども」と「父なるダゴン」を混同してしまっている部分が随所に見られるのも残念。
恐怖小説としては良い出来だと思いますが、クトゥルーとしてはちょっとアラが目立った気がします。
ラベル:書評