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世界にただ一台だけ存在するワンダーマシンと呼ばれるタイムマシンと、それを所有する富豪ブライスによって歴史が書き換えられる世界。
「俺」ことノーマン・T・ギブスンは、シティの薄汚い雑居ビルに事務所を構える私立探偵。ある時、ブライスの会社、タイムズ・コーポレーションから1人の美女と共に訳ありな依頼が舞い込んできた・・・。
タイトルだけだと、なんとなくミステリーやハードボイルドを連想しますが、一応SFだったりします。
厳密にはハードボイルド風SFとでも言いますか、ちょっと他に見ないタイプの作品ですね。
理論的な時間SFと、情緒的なハードボイルドを融合させて、ちゃんとした話が出来上がるものかと言う気もしなくはないけど、これがまあ、ぴったりと噛み合っているから凄い。
それは、時間SFにとっては禁忌とも言える歴史改変が当たり前のように行われている世界を用意する荒業をやってのけ、改変によって発生する「異化」を事件に絡ませると言うコロンブスの卵的発想あってのもの。パラドックスなんてキニシナイ!!という潔すぎる姿勢が最高にカッコイイですね。
しかしそれは反対から見れば、理論というものを放棄している事でもありますから、理路整然とした筋書きと、明確な回答・・・世界の全てを余すことなく理論的に説明する事を楽しむ本格ミステリーやハード系SFが好きな人にはちよっと合わないかも知れません。大抵の謎は歴史改変による世界の「異化」で片付いちゃぅもんなあ。
楽しむポイントは「俺」の相手の神経を逆なでする物言いや痩せ我慢、クールぶっているくせに実は激情家で、行動原理は「俺」規範・・・って、それハードボイルド小説の楽しみまんまやん。
ああ、そうすると本作はハードボイルド風SFではなく、SF風ハードボイルドとすべきか。
海外ハードボイルドのエッセンスを巧く取り込んだ文体と言い、好きな人はかなり好きなんだと思いますよ。
例えば僕とか(笑)。
ラベル:書評