アラスカ戦線 ハンス・オットー・マイスナー 松谷 健二 早川書房 1972-08 売り上げランキング : 95976 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1944年、日本軍はアッツ島に飛行場を建設し、米本土に対する戦略爆撃を計画していた。
しかし爆撃機の往路に当たるアラスカ上空は天候の変化が激しいため、詳細な気象データ無しでは計画の実現はおぼつかない。
そこで、軍は精鋭の日高大尉率いる分隊をアラスカの原野に降下させ、気象観測データの送信を行わせる。
しかし、その電波は米軍に傍受されていた・・・。
世にも珍しい、ドイツ人によって描かれた太平洋戦争を舞台とした小説。
流石に日本人の名前がちよっと変だったりするし、日本では終戦まで制式化出来なかった筈の4発重爆(エンジンが4つ付いた大型爆撃機)が普通に存在したりと、日本軍を買い被り気味かな。
一応当時の日本には、フィリピン辺りで米軍から分捕ったB-17を参考にして開発した「連山」という4発爆撃機(海軍機なので正式には"陸攻")の試作機があるにはあったのですが、戦局が逼迫していた為にまともなテストも行わないまま終戦を迎え、とてもじゃないけど制式化なんて言う状況ではありませんでした。
そんな調子なので、あまり考証面は気にしない方が良いと思います。
しかしその一方で、米国人や日本人が書く太平洋戦争ものとは違い、冷徹な第三者視点で両軍を描いており、アメリカの正義だの大東亜解放の聖戦だのといった大義名分を、あくまで両陣営の「お国の事情」として扱っている点は評価したいですね。とにかく作者の視点が両陣営に対して公平。
そして、日米共に主人公は武士道(騎士道)精神の持ち主で、フェアプレイに徹するという姿勢がまた無駄にカッコイイ。
物語に関しては戦争をテーマにしつつも、基本的にはアラスカの原野を舞台に、追う者と追われる者、騙す者と騙される者という両軍の駆け引きがメインとなっており、いわゆる戦争小説とは趣を異にします。冒険小説寄りかも。
ラスト前で、エスキモーに変装した日高が宿敵アランを騙し討ちしようとした際に、卑怯な手口を使う事に対する葛藤からか、ついうっかり魚を箸で食べてしまい日本人だと看破される展開には笑ったけど、最期は戦後20年経って、かつての宿敵同士が和やかに再会するなど、読後感は非常に爽やかでした。
冒険小説ファンの間では根強い人気の作品らしいですが、たしかにそれも納得です。