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真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)
染田屋 茂 スティーヴン ハンター
書かれた時期が88年とやや古い事もあって、今は無きソ連という国が登場したりしますが、その面白さは折り紙付き。この手のジャンルはその時々の最新ニュースに着想を得た、鮮度だけが命という作品が非常に多い(特に日本人作家の場合は顕著)中で、時代背景を抜きにしても、物語として充分に楽しめる数少ない作品の一つでしょう。
なお、この時期にこの作品を取り上げた理由は・・・近日読む予定の某小説にて本作の名前を目にしたからです。
メリーランド州山中の核ミサイル単独発射機能を持つ基地が謎の武装集団の襲撃を受け、占拠された。
武装集団のリーダーはソ連に対する核攻撃を宣言するが、発射キーは管制官の手によって隔離されていた。キーを何とか手に入れようとする武装集団。隔壁に穴を開け、キー取り出すまでの推定時間は約18時間。歴戦の勇将プラー大佐率いるデルタ・フォースは、18時間以内に基地を奪回できるのか・・・。
と言う話。核攻撃先を中国なりロシアなりに置き換えれば現代でも充分通用する話です。
ハンター作品と言うと、スワガーシリーズの様な超人的なヒーローが活躍する作品を連想しがちですが、本作品には特定の主人公はいません。その点では以前紹介した「クルドの暗殺者」に近いのですが、「クルドの暗殺者」の場合、視点の移動が多いわりに、プロットの立つ足場が定まりきれていなかったために、結果としてひたすら散漫な物語になっていまいました。
対して本作は、まず「18時間以内に基地を奪回する」という明確な目的があります。
ストーリーの芯が通っている為、視点が移動しても、特定の狂言回しがいなくても、物語の展開は常に地に足が着いています。おかげで上下巻と、結構長い話ながら、テンションを維持したまま読み進める事が出来ました。
ちなみに本作、当ブログのカテゴリ分けでは「冒険」にカテゴライズしましたが、多分戦争小説と言っても差し支えないかも知れません。基地を巡る銃撃戦は、双方併せて300人以上の犠牲者を出す壮絶さですし、終盤にはA-10攻撃機も投入される派手さ加減。
その一方で、登場人物をただの駒にはせず、一人一人にしっかりと人間味を持たせているのはさすがです。個人的にはアクリー捜査官に涙した。
ちなみにプラー大佐はベトナム時代に、ボブ・リー・スワガーに助けられた過去があります。こういう作品間の微妙なリンクはハンター氏の得意技で、ファンにはちょっと嬉しい配慮かも。
ラベル:書評