2007年06月21日

打てや叩けや―源平物怪合戦 東郷隆

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打てや叩けや―源平物怪合戦打てや叩けや―源平物怪合戦
東郷 隆

新潮社 1992-06
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内容(「BOOK」データベースより)
後白河院の策謀がうごめき、義経・頼朝が反目しあい、洛中に印地、凶徒、あやかしの者どもが跳梁する末法の世。おのれに幻術をかけ、愛しき百合根を殺した巫女を追う、古童子・阿古丸は、いつしか乱世の渦に呑みこまれていった…。京、熊野、鎌倉を舞台に血腥い風が吹きあれ、怪事、変事が続発する。伝奇小説の新境地をひらく傑作長篇



東郷氏がそれまでの冒険小説路線から、時代小説、時代怪奇小説といった路線へと踏み込み始めた時期の作品です。
一読して感じたのは、最近の作品群に比べると非常に「固い」感じがする事でしょうか。
歴史を取り扱う作品である以上、舞台となる時代の文化や風習を調べ、読者に当時の雰囲気を感じさせる事は、時代読み物としては必要な事だと思います。


実際この作品は、そうした雰囲気の再現度に関しては(それが学術的に正しいか否かは別として)文句の付け所がなく、鎌倉期の人間の生死感の様なものはひしひしと感じさせるものがあります。
が、いかんせん、頁の大半をそうした雰囲気作りの方向へ割いてしまっているので、歴史の影で暗躍したとされる妖術使いやあやかしの者と言った、登場人物が今ひとつ影が薄くなっています。
神の視点で歴史を俯瞰するタイプの作品ならこれで問題ないのでしょうが、この作品はあくまで阿古丸を中心とした、歴史に翻弄された名もなき人々の視点で語られます。
それだけに人物像が固まりきれていないのは少し痛い。

また、物語に関しても、序盤の展開でスケールの大きな魔術合戦の様な展開を期待させておいて、締めは結局男女の「愛」だった・・・と、小さく纏めてしまったのもマイナス点。
そもそもその方向に纏めるなら、何を置いても人物像をきちんと描かないと、どういう紆余曲折で梓があのような行動を取ったのかイマイチ釈然としません。
もちろんメロドラマ臭くクドクドと心理描写をされると、退屈のあまり睡魔と闘う事だけを余儀なくされる拷問本と化してしまうので、ある程度読者の想像が入り込む余地はあるほうが良いのですが・・・。

とは言え、後に独自の歴史小説で活躍する東郷氏の、考証は厳密に、崩す時は大胆に・・・といったスタイルの源流の様なものは充分感じられました。
東郷作品の入門には不向きですが、何冊か読んで氏の作品に好意的な人なら読んでおいて損はないでしょう。
ラベル:書評
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posted by 黒猫 at 21:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝奇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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