2007年04月12日

鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと 鈴木真哉

鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと
鈴木 真哉

筑摩書房 2000-09
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鉄砲伝来〜戦国期〜幕末〜明治の各種資料を対比しながら、我が国における鉄砲の位置付け論じているのが本書。

意外なのは戦国期既に各地の大名は鉄砲と言う新式の武器に大いに関心を寄せていた事。
鉄砲と言えば信長を連想する人が多いが、長篠の戦いではむしろ武田型の方がより多くの鉄砲を投入していたりして、既にこの時代、刀剣類は主力武器の座から降りつつあった事が判る。
そして、いわゆる信長の「三段撃ち」が、日本で初めて鉄砲を本格的に運用した事例だというのは完全な俗説に過ぎない可能性が高い事。
ちなみに「三段撃ち」は江戸初期に書かれた通俗小説「信長記」が初出だが、そのような戦術が使われたと言う根拠は無く、信用に値するものでは無い。しかし明治期の陸軍の教科書に記載された事から、近年まで殆ど検証されること無く受け入れられてきたと言う。

それでは何故刀剣類が廃れなかったのかと言う話になるが、ここで著者は、刀は首級を挙げる上で必要だからという結論を出している。要するに首を切る為の刃物だと言う。
しかし正直この説はどうかと思う。
むしろ当時の銃は連射性能に劣り、天候によっては使用出来ず、更には命中精度が低い為至近距離での使用を余儀なくされていた事が刀剣類の延命に繋がったのでは・・・という気がしなくも無い。
更に、夜襲や遮蔽物の多い狭隘な地形(日本は大抵そんな地形)、屋内での戦闘と言うシチュエーションだと、火縄銃などよりも刀の方が有用な武器になる場合もあるんじゃなかろうかと思う。実際、幕末期、精度や射程に優れ、装填も容易な洋式銃が登場すると刀剣類は一気に存在意義を喪失している。

この様に、幾つか問題はあれども比較的反発無く受け入れられてきた鉄砲だが、正確な時期は特定できないけども、ある時期を境に"卑しい武器"という認識が生まれる。
刀剣は厳しい鍛錬で自己をも鍛え上げる武器で、反対に鉄砲は卑劣な武器・・・という、今日でも子供向けの漫画でよく描かれ続けているアレ。
過去の資料を見る限り侍は鉄砲を有用な武器として好んで利用しており、この説だと侍自体が卑しい集団と言う事になってしまう。
転機となったのは、本書では日露戦争だと位置づけている。
この戦争の勝因は多分に政治的なものだったのだけども、当時の軍は質、量に勝るロシア軍を打ち破ったのは偏に突撃精神の賜物だとし、そこから白兵至上主義が生まれ、それが日本における鉄砲伝来以降の認識を改竄し、刀剣崇拝、チャンバラ崇拝と言った思想に繋がって行ったのでは、という事。
そしてこの思想が、後の太平洋戦争では、無謀な吶喊攻撃の常套化という悲劇(意地悪な言い方をすれば喜劇)を生み出していった・・・と。
この説はそれなりに説得力がある様感じる。



印象として、著者はどちらかと言うと銃器信奉者的なきらいがあり、おそらく刀剣崇拝信者の人から見れば多分に噴飯ものの部分もあるだろう。
上で触れた首切りの件にしろ、刀は鎧に叩きつける様にして斬る・・・という記述にしろ、日本刀の特性を考えるとかなり暴論かも知れない。日本刀の繊細さや武芸を、全く理解していないと言う意見が出るのも仕方ないとは思う。
しかし、繊細な刀は太平の江戸期に流行したもので、それ以前は切れ味よりも堅牢さを重視した胴田貫が多用されていた。ある意味こうした美学よりも実用性という当時の侍達の考え方が、より実用的な鉄砲へと関心を募らせた・・・というのは自然な流れとも考えられるのではないだろうか。

定説を正面から覆そうと言う野心的な内容だけに、何処まで信じて良いのかは議論の余地があるが、「こういう歴史観もあるんだな」と言う、認識の幅を広げる効果はあると思うので、一度は読んでおいても損は無いと思う。

・・・って、豪く長文になってしまったなオイ(笑)


ラベル:書評
posted by 黒猫 at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・時代物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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