2007年03月27日

渚にて―人類最後の日 ネビル・シュート

肝心なのは、その日が、明るくて、暖かい、上天気の日だったことである。最初の水仙が咲いた事である。



渚にて―人類最後の日渚にて―人類最後の日
ネビル・シュート 井上 勇

東京創元社 1965-09
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久々に泣けた。
全力で泣いた。

本書は核戦争を取り扱った作品で、発表されたのは約50年前。朝鮮戦争を経て冷戦が本格化し始め、米ソが狂った様に核開発に邁進し始めた時期に執筆されたという事になります。

本作における核戦争は、アメリカもしくはソ連が口火を切って始まるものではなく、中東や中央アジア諸国に拡散した核兵器が、最初にヨーロッパを襲ったことから始まる。
北朝鮮やイランが核武装し、韓国や台湾が核開発に関心を示し、我が国でも核議論が始まりつつある昨今だけど、50年前に核の拡散を予見していた作者の先見の明には感服。実はこの作者、第二次世界大戦中に面白いエピソードがあるのだけど、まあそれは後述するとして、軍事に関しては素人ではなかったからこそ、50年後の世界の姿が見えていたのだと思う。

しかし、本作の主題はそこにはありません。

何せ、物語が始まった時点で戦争は終結している。5000発のコバルト爆弾(※1)と核爆弾による北半球の完全な壊滅をもって。
今や地球に残された僅かな人類の生存エリアであるオーストラリア。しかし北半球を覆った濃密な放射能は風に乗って少しずつ南下を始め、予測では9ヶ月後にはオーストラリアは放射能に包まれ、人類は滅亡する・・・。

本作の主題は、終末を目前にした人々が、残された時間を大切に生きる姿を描く事にあると思う。
前編通してこれという山場があるでもなく、ただひたすら淡々と進行するが、本作には扇情的な心理描写は不要。完全に行間を読む作品であって、お膳立てされた心理描写に酔う作品ではありません。

9ヶ月後の事を知りながらも、来年、再来年のためにと花を植える人。
敢えて放射能に包まれた故郷に帰り、故郷の海に釣り糸を垂れて最後の時を迎える水兵・・・

避けられない運命を知りながら(知っているからこそ)、人間としての尊厳を守って、穏やかに終末を迎えようとする人々の姿は涙なくして読めません。

50年前の作品とは言え、その作品の価値は全く損なわれていません。むしろ人としての尊厳を自分から投げ捨てて自暴自棄になる人の多い現代だからこそ、一人でも多くの人に読んでもらいたい。文句なしに素晴らしい作品です。


で、上で述べた作者のエピソードですが、このネヴィル・シュートと言う人は、もともとデ・ハヴィランド社と言う航空機メーカーの技術者で、第二次世界大戦中には、"あの"イギリスの超兵器、「パンジャンドラム」の開発計画に携わった経歴を持ちます。
パンジャンドラムがいかに恐るべき兵器であったかは、下の参照リンク先の下のほうを読めばある程度判っていただけると思います。

http://www1.ocn.ne.jp/~ufc/m2.htm

まさにローリングボムと双璧をなす超兵器!これに陸軍登戸研究所謹製の風船爆弾を加えると、第二次大戦の三大超兵器となります(嘘)

ちなみにリンク先にはありませんが、ドイツも似たような兵器を開発していました・・・が、デザインがあまりに実用的でつまんないのでどうでもいいです(笑)




(※1)残留放射性物質による長期間の汚染と暴露を主目的にしたえげつない核兵器
タグ:書評
posted by 黒猫 at 00:14| Comment(2) | TrackBack(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この本、読んだか読まなかったか忘れてしまって、ずっと気になっていたんですが、黒猫さんのレビューを読んで、未読なことがわかりました(^^;)。
うーーー、読みたい!とっても面白そうです。
Posted by ちょこ at 2007年04月01日 02:11
ちょこさんこんばんはー
これは本当に名作だと思いますので、是非読んでみてください。作者のシュート氏はこの作品を書いた3年後、作品の舞台となるメルボルンで亡くなっています。きっと自分自身の運命と向き合いながら書いたんだろうなあ。

近々同じくシュート氏の「パイドパイパー」も読む予定です。こっちも名作と呼ばれていますから楽しみ♪
Posted by 黒猫 at 2007年04月01日 20:39
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