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横須賀に大挙して上陸してきた巨大な甲殻類の群れ。
人を襲い、捕食する凶暴な甲殻類に対し、警察は機動隊を動員して封じ込めを計る。
一方、騒動の中で、停泊中だった海上自衛隊の潜水艦「きりしお」に非難した少年少女たちは、潜水艦と言う閉鎖空間の中で不自由な避難生活を余儀なくされる・・・。
なかなか面白い作品でした。
テーマは危機管理、少年少女、自衛隊の3つでしょうか。
危機管理に関しては正直な話、ちょっと恣意的に描きすぎじゃないか?と思う部分があった。
自衛隊に出動命令が下るのに6日もかかっているし、それまでの間、凶暴な生物を機動隊で押し留めさせるという設定は、かなり無理があるとは思うが、この国のやや不備の多い危機管理体制をカリカチュアした姿って事でしょうか。
同様に不躾なマスコミの姿も、有川氏の主な読者層向けにカリカチュアされているなと思った。
少年少女達の部分に関しては、大きな流れとして甲殻類と、それと戦う国家機関の姿があるとすれば、その危機の中で翻弄される無力な存在・・・と言うポジション。
森生姉弟と圭介の確執や過去に関しては正直クドクドしくて微妙だったけれど、本編の流れを阻害するほどの物ではありませんでしたが・・・。
反面夏木達自衛官と、意外と良い奴な茂久や、軍事マニアの令一とのやり取りはなかなか面白かった。森生姉弟や圭介の背景を掘り下げるよりも、むしろこっちの方にスポットを当てて欲しかったな。望と圭介ばっかりが目だって、他の子達が完全に空気と化していたのは、後書きにある"15少年漂流記"路線としてはどーよ、と。
・・・とは言え、やっぱり面白い作品なのは間違いない。例えば、巨大甲殻類と言っても、精々数メートル位の海老なんだから、M2重機関銃で簡単に撃退出来るんじゃ?と読みながらイライラしてたら、終盤でまさにそのとおりの展開になったのは、見事に一本取られたという感じだったし。このシーンのために敢えてフラストレーションの溜まる、甲殻類との格闘戦?やおしくらまんじゅうモドキを書いていたんですね。切り替えのタイミングが非常に上手い。
いまや流行作家の頂点とも言える座を射止めた有川氏ですが、この本の当時はまだ地味な存在。しかし、今日の活躍ぶりを予感させる要素は既に持っていたという事でしょう。
今更言っても仕方ない事ですが、ある程度評価の固まった現在よりも、まだマイナーだった「塩の街」当時からリアルタイムで追ってみたかったな・・・。
余談ですが、10年位前に良く似た話の本を読んだ記憶があります。確か深海から謎の生物の大群が東京湾に押し寄せてきて・・・と言う話で、やっぱり危機管理で少年少女で自衛隊(こっちはメインが何故か陸自だった記憶がある)な話でした。また、同じ作者の本で、バイオハザード的に生まれた怪物の大群と、危機管理と少年少女と自衛隊の物語もありました。多分まだ本は何処かにあると思うので、サルベージ出来たら紹介しようと思います。