2007年03月19日

わが手に拳銃を 高村薫

「いつか利子をつけて返すよ。僕らの利子は高いんだ。年利三割の複利でどうだ? 払えない場合は、命で返す」


わが手に拳銃をわが手に拳銃を
高村 薫

講談社 1992-03
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何と言っても驚くのは、拳銃に関する描写。
本作はいわゆる銃撃戦ものではなく、銃撃のシーンは殆どありません。主人公の一彰は運命の悪戯から、密輸された拳銃の修理や改造を行う仕事を引き受ける事になり・・・というのでピンと来たと思いますが、ガンスミス的な方面。
内部構造の濃い描写は圧巻で、これはやっぱり拳銃と言うものが余程好きじゃないと書けない域だと思った。

拳銃が横糸だとすると縦糸は、一彰とリ・オウなる人物との長年の友情劇。終盤では愛憎劇とも言えるか。
とにかくこの奔放で、悪漢でありながら邪気の無く・・・それでいて底の知れないリ・オウが魅力的。これは一彰でなくとも惹かれるでしょう。暗くて自虐的な一彰とはまさにベストカプール(笑)
この辺、一歩間違えると腐女子的でもある部分で、著者が女性である事を意識させてくれます。
と言うか、工作機械や拳銃の濃い描写(大藪系にありがちな表層的な薀蓄を垂れ流さないのがポイント)やら、硬質な文章やらは、女性と思えないものがありますから。

なお本作は「李歐」と言うタイトルで文庫化されていますが、全面的に書き直しが入っているので、大まかなストーリーや登場人物意外は別物になっているそうです。
本書で、ここ必要かなあ・・・?と感じたリ・オウの背後関係とかはカットされたとか、一彰の屈折した人間像がマイルドになったとか色々聞いてますので、文庫版も機会があれば読んでみようと思う。

この作品が発表されたのはまだ日本がバブルに浮かれていて、その陰で着実に平成大不況の足音が聞こえつつあった時期です。中華系マフィアの日本上陸や、町工場にかかりつつある暗い影など、21世紀の今振り返れば、ああ、こんな時代だったなという感じですが、当時はそんな現状に気づいている人はあまりいなかった事を思えば、高村氏の洞察力には敬服です。
リ・オウが故郷に関して述べる時も、「先富論」により必ず貧富の差は増大する、そこに付け込んでのしあがってやる・・・と言う感じで、今日の姿を正確に予見しているんですよね。
ちなみに、かつての「先富論」と酷似した「上げ潮路線」なんてやってる国もありますが・・・。
posted by 黒猫 at 09:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ハードボイルド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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