忌まわしい匣 牧野 修 集英社 2003-02 売り上げランキング : 175175 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
先週は仕事が忙しくてあまり本を読めなかった黒猫です。
こういう時って、特に長編はモチベーションが途切れたり、何処まで読んだか記憶が曖昧になったりしがちです。
そんな訳でこの短編集を読んでいたのですが・・・うーん、短編集というのは、色々なタイプの話を気軽に楽しめるし、読むのは好きなんですがいかんせん感想が書きにくいデス。
なにぶん13篇の物語に全部感想書いていたら、たぶんかなりの長文になってしまうし、そんなの、ここを読んでくださっている人が途中でげんなりして来るのは必至でしょうし・・・。
総評としては、僕の好きな「猟奇的な牧野」色が強くて満足できる内容でした。この人の「猟奇的」とはすなわちグログロな世界。でも読んだ事のある人は判ると思いますが、生理的嫌悪感を伴うグロじゃないんですよね。それは描写自体があっけらかんとしていると言うのもありますが、何よりもドロドロした情念が籠った話ではない、と言うのが大きいかもです。
グロは確かに気持ち悪いんですが、それ以上に厭なのは、グロに至る行為を為す人間の歪んだ精神・・・それが中途半端に理解できたりすると、自分もどこかおかしくなったのかと、とても厭な気分になってしまうんですよね。
牧野作品はどちらかと言うと、そういう精神を病む作風ではなく、視覚的な方向を突き詰めた感じがあります。
この本で言うと、「罪と罰の機械」や「我ハ一塊ノ肉塊ナリ」何かがピンポイントでそれ。
前者はケレン味すら感じる殺戮の嵐、後者は肉々しいグロの極地です。「B1公爵夫人」もある意味殺戮の嵐系でしょうか。
個人的に好きな話は「おもひで女」と「ワルツ」の二編。
「おもひで女」は、不気味な女が記憶の中を過去から現在へとにじり寄ってくる話で、さほどグロくはないんですが、とても厭な感じです。内面から追い込まれるタイプの話ですが、記憶と言う視覚的なものを最大限活用しているのが牧野氏らしいと言うか。
「ワルツ」は街娼の女性が体験する幻想の10数年を描く話。
これはちょっと説明しづらいんで、実際読んでいただくのが一番早いかも(汗)。ラストは不思議な喪失感が漂っています。
気になる点を一つ挙げると、現代に対する皮肉というか、毒のような物が利いていて、それがある特定のベクトルに偏った思想を持つ人々にはかなり不快感を持たれる危険性があるんじゃないかなと言う事。特に「甘い血」などは、日本版ネオナチまがいの組織と、それに傾倒する人達と言う話だったりするし・・・ねえ。
ラベル:書評