2007年02月26日

瑠璃の翼 山之口洋

空中勤務者


瑠璃の翼瑠璃の翼
山之口 洋

文藝春秋 2006-12
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野口雄二郎大佐率いる通称"稲妻戦隊"の活躍を描くノンフィクション小説。

作者の山之口氏は、第10回ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューした人で、同賞と言えば現在人気の恩田陸氏などもこの賞からデビューしてます。
と言う事で、正直戦記は畑違いじゃね?という一抹の不安がありましたが、いやいや、小説というスタイルなので多少の誇張はあると思いますが、基本的には資料や史実に忠実に書かれていました。
日本軍は悪逆非道な(ryとか、大東亜戦争は亜細亜開放の聖戦云々とか、そういう思想的偏りが無く、ある意味冷徹な視点を貫いている点は高く評価出来ると思います。
ちなみに作者は本書の主人公野口大佐の孫と言う事だそうです。


野口大佐率いる稲妻戦隊に関しては、検索しても色々出てくると思いますが、ノモンハンの戦いにおいて常に量的に優勢なソ連空軍を圧倒し続け、そのキルレシオは10:1という脅威的なものでした。(ちなみにフィンランドとソ連の間で戦われた冬戦争では16:1。フィンランドすげえ)
航空優勢は最後まで一度たりともソ連側に渡さなかったものの、陸上の戦いは散々でした。
それでも死傷者数はソ連側が多いため、ノモンハンは日本軍の実質的勝利とする説もありますが、それだと硫黄島も占守島も日本軍の勝利となってしまいます・・・。

余談ですが、よく日本陸軍は戦車の貧弱さをしてノモンハンに於ける戦訓を活かせず・・・と批判されますが、実はこれかなり言いがかり。と言うのも、本書でも触れられていますがノモンハン当時のソ連軍主力戦車BT系列は機動力こそ高いものの、装甲は極めて薄く、速射砲や連隊砲で簡単に撃破できる代物でした。また火炎瓶による肉薄攻撃にも脆く、わざわざ戦車で対抗する必要が無かった訳です。意外にもノモンハンの地に於いて最も重装甲を誇ったのは試験的に投入されていた日本軍の九七式中戦車!
そう、アメリカ兵には機関銃ででも倒せる戦車と大好評だったチハタンです。こんな状態ですから、ノモンハンで戦車同士の撃ちあいに関する戦訓が得られたかは極めて疑問。強いて言うと、チハタンの主砲が対戦車戦闘に不向きなのは露呈したので、その点を活かせなかった事位でしょうか。


話を戻して、本書の肝となる空戦に関する描写は、場の雰囲気を伝えるという意味では出色の完成度。いわゆる仮想戦記等にありがちな、神の視点でもって戦場全体を描くそれではなく、一操縦士の視点で切り取った空戦の一コマ、瞬間の生死の一コマ、それらを重ね合わせる事で、戦場を描き出す手法が使われています。
そういう意味では本書は厳密に言うと歴史物語でも戦史研究でもなく、あくまで大陸の空で圧倒的な敵に立ち向かった空中勤務者達の群像劇という事になる・・・のかな。

個人的にはネタ満載人物として大好きな辻政信タンのエキセントリック度が不足していたのがちょっと不満ですが(笑)、下手な仮想戦記なんかよりはずっと物語に厚みがありますし、戦闘機に関する描写も的確かつ解りやすい様に配慮されていて、予備知識が無くても入りやすくなっています。
結構お勧め。



ラベル:書評
posted by 黒猫 at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦記・ミリタリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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