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柄にも無く小難しい本を読もうと思ったもんだ・・・と、最初手にした時は思ったりもしましたが、一応動機はあります。
例の土曜6時アニメにて「山の民」ネタが出ていたので、関連する作品と話は聞いていたものの、本書は未読だったので丁度良い機会かなと読み始めた訳です。
で・・・。
いや、思っていたほど難しい話じゃないなあ、と。それが第一印象。いまや五木氏と言えば「文学の偉い人」と言う印象が強いんですが、本書が書かれた当時はまだ良い意味で下世話な部分も強く、青臭い理想を言葉のオブラートで包むことなく、どんとぶつけてくる感じです。
後に書かれた作品を読もうとして挫折した記憶もあるわけですが、この作品に関しては上下巻合計700ページの大作ながら、途中で疲れる事無く読了できました。
博多のバーで目にした一枚の絵画、幻の画家が描いたとされるその絵は大戦末期にドイツからUボートで日本に運び込まれてきた物で・・・絵画を巡り物語はどんどんスケールアップして行き、地方財界から中央政界を巻き込み、果ては社会主義政権下のチリへと物語は展開していく・・・。
件の「山の民」は、丁度上巻のラストと下巻の序盤に登場し、国家権力に追われる身となった主人公達を助けるという役所ですが、三角小説に登場する様な超人的な存在ではありません。日本の裏の部分で巨大なネットワークを形成している存在という感じ。作者は彼らを非国民ならぬ「非・国民」と表していますが、成る程確かに言い得て妙。
で、本書は普通に読めば国際冒険小説としても楽しめますが、作者が作中に込めた理想、あるいは願望を読むとすれば、「自由」でしょう。
国家に属さない自由、しがらみの無い自由、デラシネとしての自由・・・。
度々言及される「山の民」や「ジプシー」と言った存在は、作者にとっての自由の象徴。
ある意味、現代では一笑に付される価値観ではありますが、作品が書かれた当時と言えば、NAM戦たけなわで東西冷戦のピークとも言える時期であり、核戦争の恐怖が世界を覆っていた時期です。僕が生まれる以前の話なので実体験はありませんが、当時の東西の兵器体系なんかを見ると、核戦争を意識しまくった狂気のラインナップだったりするので、やっぱり個人レベルに至るまで危機感はあったんじゃないかなあ・・・と思います。
そういう土壌があって、国家という装置に対して不信感が生まれていた時代、というのを念頭に置いて読むのが正しい読み方かも知れません。もちろんエンタメとしてもレベル高い作品なので、思想的なもの抜きで楽しむのもアリです。



