久しぶりの沢崎シリーズ。国産の固ゆでジャンルでは古典に入れてもいい作品ですが、それ以前に日本では固ゆでを誤解している方が少なくないのもまた事実。暴力とエロスで有名な「黒豹シリーズ」の帯にハードボイルドとか平気で書いて売っていますからね。そもそもハードボイラーな主人公は国家公務員なんて親方日の丸な生き方はしねえよ、と。
本書は僕にとってそして夜は甦るに続いて2冊目の沢崎となる訳ですが、一読した感想としては・・・ちょっと微妙。具体的に挙げると。前作にあった沢崎の孤独感の様な物がかなり失われている事、登場人物が多い割に存在感のある人物に欠ける事、渡辺、橋爪の因縁コンビの出番が少ない事・・・などなど。
特に人物周りの寂しさは大きくて、前作に登場した諏訪の様な沢崎に負けず劣らず孤独な存在が不在な事。更に過去の亡霊のように付きまとう渡辺や、渡辺に絡んで現在の沢崎を悩ませる橋爪と言った、沢崎を精神的に追い込む存在の影が薄くて、沢崎の
「崖っぷち。でも生きている。・・・べ、べつに、つ、つつ強がりなんかじゃないんだい!ささ、寂しくなんか無いんだからね!」
という固ゆで精神(笑)までもが希薄になっている事。
で、結局普通のミステリー調になってしまっています。しかしミステリーとしても最終章でのひっくり返しに至る経路が曖昧で、言いたい事は判るけどそれって強引じゃあ・・・という感想しか持てませんでした。
直木賞受賞作らしいですが、僕的には辛い評価です。
ラベル:書評