2006年08月19日

月光とアムネジア/牧野修





牧野氏の作品は初めて読んだのですが、非常に存在感のある文体の方です。
改行の多い部分と妙に密度の高い部分の落差、接続詞の多い台詞回し、これら一見すると悪文とされかねない要素がふんだんに奢られているにもかかわらず、ぐいぐい読ませる力があります。

60年間誰にも姿を見られた事の無い伝説の殺人鬼とそれを追う刑事。
ミステリーものかと思えるプロットですが、人間の記憶を3時間毎にリセットしてしまう特殊空間「レーテ」やレーテ内にのみ出没する数々の怪物たちの存在、現代の日本に似ているようで何かが決定的に違う物語世界など、むしろSF領域の作品と言えるでしょう。

物語の謎の部分は中盤で大体全体像が見えてくるので、大きな驚きは特に無いのですが、個人的に気に入ったのは舞台となる「関の西4県」の設定。主人公漆他山はうち一県であるアガダ原中県の刑事なのですが、このアガダ原中県の方言があからさまに土佐弁っぽいので、「関の西4県」は四国をイメージしてよいと思います。
物語のメイン舞台となるアガダ原中県とケモン帆県県境の山岳地帯は恐らく愛媛と高知の県境、丁度四国山地の真ん中辺りでしょうか。四国の方ならご存知と思いますが愛媛と高知の県境と言えば峻険な山塊やらカルスト台地やらが広がったある意味秘境です。そこで伝説の殺人鬼やらケモン帆県立軍の兵士達と追いつ追われつ虚々実実の駆け引きが繰り広げられるのです。
地元人には情景が想像できて非常に楽しめました。

また物語の大きなギミックである「レーテ」ですが、人の記憶を3時間毎にリセットするという設定ゆえに読者の作中に対する時間感覚をも狂わせ、レーテ内での事象をよりミステリアスに感じさせてくれます。ただ中盤以降は"タイムリミット"的な使われ方しかしていなかったのが残念といえば残念ですが。
最期のエピソードに当る部分はいささか強引ながらまさかと言う展開と、余韻の残る締め方で印象的でした。

それにしてもこの作者の造語センスには脱帽。他の作品も読んでみたくなりました。


38冊目。


posted by 黒猫 at 23:48| Comment(4) | TrackBack(1) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。トラバありがとうございました(´∀`)
初牧野本とのこと、これから沢山の牧野本を読めるというのが羨ましい!
早川書房のJコレからでている「楽園の知恵」(短編集です)を読むと、造語やら新しい世界やらロマンスやら、いろいろなエッセンスが楽しめますよ。是非!
奇怪な世界と造語なら「だからドロシー帰っておいで」(角川ホラー文庫)が凄まじいです。
いきなり牧野信者で失礼しました!
Posted by あひる at 2006年08月20日 00:15
あひるさん初めまして。コメント感謝です。
早速お薦めの「楽園の知恵」、アマゾンに注文しました。
どんな内容か今から楽しみです。
アマゾン見ていて思ったんですが牧野氏って結構色々な本に短編書かれているんですね。コンプ目指してみるのも面白いかなあ。
ホラーも色々書かれているようですが、独特の閉塞感ある文章で書かれているかと思うとなかなか怖そう・・・
実はホラーものも好きなので挑戦してみたいと思います。
Posted by 黒猫 at 2006年08月20日 22:17
トラックバックありがとうございます。
私のオススメの牧野本は「mouse」です。
私が初めて牧野修に触れた作品であり、牧野言語によって私の価値観が変えられてしまった本です。

逆にあまりお勧めできないのが、SF大賞を受賞した「傀儡后」。信者以外が、SF大賞という言葉を信じて買うと、どこがSF大賞なんだよ〜!と後悔します。

ホラー好きで牧野好きなら、異形コレクションというホラー短編集をお勧めします。テーマを決めて色んな作家がホラー短編を書いています。しかも、書き下ろしというのが、たまりません。
牧野作品が毎回載っているわけではありませんが、最新の「進化論」には牧野作品が掲載されてます。手元にあるけど、まだ読んでないんだよな〜。
Posted by ドンタコスN村 at 2006年08月23日 00:11
ドンタコスN村さんはじめまして!
「mouse」ってドラッグ系の内容だったでしょぅか。牧野言語とは相性良さそうですね。
現在先日注文した楽園の知恵を読んでいるので読了したら次は「mouse」行ってみようと思います。
牧野言語は癖になりそうです。

他の方の書評をみると牧野氏のホラーはいい意味でグロイと評されている方が多いので、何から手をつけようか楽しみです。今まで牧野氏を知らなかったのは損した気分です。
Posted by 黒猫 at 2006年08月23日 21:36
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Excerpt: 「月光とアムネジア」 牧野修(図書館)を読む。面白い。SF。イラスト:ヒロモト森一 体脂肪率を量った公立のスポーツセンターでエアロバイクを漕ぎながら読んだ。非常に相性が良かった。サバイバル物語と体に..
Weblog: 「短歌と短剣」探検譚
Tracked: 2007-01-31 23:50

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