スペンサーシリーズ中では最高傑作との声高い本作、出版されてから結構立ちますが未だに版を重ねられているというある意味化け物の様な作品。
内容はいわゆる「育てもの」で、自分勝手な両親に半ばネグレクトされている少年をスペンサーが預かって"一人前の男"として生きてゆく術を教えるという内容です。
スペンサーの元に舞い込んだ依頼は、離婚した夫の元から息子を連れてきて欲しいというもの。普段は派手な銃撃戦までやらかすスペンサーにとって、簡単な仕事のはずでした。
しかし件の少年は無気力で自閉症気味で、そしてそんな息子をあくまで互いの争いあう際の道具としてしか見ていない両親。
しかも、少年の父親はさる縁で後ろ暗い連中とも付き合いがあり、スペンサーに対して色々な妨害工作を仕掛けてきます。
こんな親の下においては置けない、少年を少しでも早く自立(人生の目的を見出し、自分自身に信念を持てる男になるという意味です)させようと奮闘するスペンサー。
彼は大抵にしておせっかい焼きなんですが、今回はそのおせっかいが物語の核となっています。
まずは少年の体を鍛える為のジョギングに始まり、ボクシングを教えたり二人で小屋を建てたり、時にはバレエを鑑賞したり。そんな中で少年は逞しくなってゆき、人生の目的としてバレエダンサーの道を見出してゆきます・・・。
タイトルの「初秋」とは、少年は今季節で言うと初秋の辺りにいる、やがて厳しい冬が訪れるまでに一人前の男にならなくてはならない・・・というスペンサーの思いから付いたタイトル。作中でスペンサーによって語られる「人に頼らず、自分の力で生きていく」という内容の言葉の数々、それは作家と言う究極の自己責任世界で、巨匠としての地位をペン一本で築き上げた作者の言葉でもあるのかも知れません。いい歳した僕ですが、本作は本当に身につまされる部分の多い作品でした。
余談ですがこの作者、時々銃に関する描写が妙に細かい時があります。寸法やスペック云々ではなく使い方の部分に関してで、例えば本書ではスペンサーのS&Wの.38口径のリボルバー、これ普段は一発弾を抜いて空にしたホールをハンマー位置にして携帯している描写があります。リボルバーは不意の衝撃でハンマーが雷管を叩いて暴発することがあるので、こうして空のホールをレストポジションにするのが安全上の措置なんですが、こんな描写は銃が日常に入り込んでいるアメリカならではだなあと変な部分で感心しました。
23冊目。