巨匠(らしい)ロス・マクドナルドの著作群の中では比較的地味な位置付けの作品。
第二次世界大戦中の1945年、海軍少尉のドレイクがハワイでの休暇中に巻き込まれた殺人事件。容疑者は友人の部下でへクターという黒人。
本土へ戻ったドレイクはへクターが脱走した事を知らされ、彼の妻のもとを訪ねるが、へクターの妻もまた死体と化していた・・・。
この主人公ドレイク少尉は余程運が悪いらしく、行く先々で事件に巻き込まれる。
南部に向かう列車内でも事件に遭遇し、また彼自身殺されそうになる。
それらの事件を繋ぐ「ブラック・イスラエル」なる急進的黒人結社の存在。そしてその結社を影から支援する投資家と、米国内の情報収集を目論む日本軍の影。
結論から言うと、ミステリーとスパイものを足してみた感じだけど、どうも上手くいってない。「ブラック・イスラエル」なる結社の本体は最期まで見えず仕舞いだったし、日本軍の動きも殆ど描写されていない。結局は個人的感情による事件部分が主で、ちょっぴりスパイ風味のミステリーと言ったほうがいいだろう。
ただ謎解き部分は2重3重にプロットが絡み合わせてあって、なかなか凝った構成だった。大陸横断列車内でまさに影法師の様にドレイクに付きまとう謎の男の存在などは会話が主で退屈しがちな列車内でのシーンに良い緊張感を持たせてくれたと思う。この辺りはさすが巨匠と言った所か。
ちなみにその男の正体は、同じく事件を追うFBIの捜査官だった訳だが、正体が明らかになって以後最期まで登場しなかったのは残念。過去の大事件にも関っていた捜査官らしいだけに何か活躍があると思っていたんだけど。
国際スパイものが好きな人には結構物足りないと思うけど、ミステリーとしてはよく出来ているというのが印象でした。
そうそう、物語のキーワードは"ブラッディマリー"です(謎
レビュー15冊目。