宇佐美 まこと
地元愛媛在住の作家さんが書いた、愛媛県内を舞台にしたホラー、それも都市型ホラーじゃなくて大好物である山村ホラーという事で読んでみた。
地元贔屓的なフィルターを外して評価すると、ホラーとしての出来は結構良かったし、複数の伏線が終盤で一本に繋がる展開の妙も良かった。だけど、人間の負のドロドロした感情や人間に寄生する特異な進化をした粘菌、さらには生霊と、いろいろな要素を詰め込みすぎている気がしなくもない。特に粘菌ですね。恐怖の正体をそこに持ってきた事自体は構わないのですけど、普通に生霊が登場する物語なんだから別に粘菌という実体ある存在を正体に据える必要はなくて、平家の怨霊でもなんでも良かった気がする。
それでもなんだかんだ言いながら深い森の奥にある粘菌が住む谷の描写とかは凄く雰囲気があった。
四国ってすごく森が深いんですよね。海沿いに散らばる僅かな平地に町があるだけで、大半は山地と深い森。
なお、作中の舞台となる山村について。地名の響きは愛媛県の小田町に似てますが、作中の説明では高知と愛媛の県境で石鎚山系に属している地域だそうです。石鎚山系に属するのは愛媛県東部の東予地域になるのですが、小田は南予地方です。さらに石手川という川の名前が出てきましたけど、これは松山市の真ん中を流れる川で地域的には中予です。なので、舞台となる山村のモデルを特定するのはかなり難しいですね。多分故意にやっているだとは思いますが。
ともあれ四国の山に登る人は、山の中でネガティブ思考したり他人に対する恨み言を考えるのはやめましょう。でないと粘菌に寄生されてしまいますよ。