紫色のクオリア (電撃文庫)
うえお 久光 綱島 志朗
唐突ですがライトノベルにペダンティックなふりかけをまぶす行為は個人的には大嫌いです。
科学や哲学を語りたければそういう専門書で語るべきです。
生半可な疑似科学や擬似哲学レベル、つまり子供だまし的な効果はあっても専門分野の人には鼻で笑い飛ばされるような屁理屈を並べ立てて俺様すげえと悦に入る作者、またそれを読んでレビュー欄でライトノベルは遂にここまで来た!やっぱりライトノベルは凄い!!と井の中の蛙のルサンチマンの裏返しで絶賛する読者…駄目です。生理的に駄目です。そういうの。
なんですが。
なんですが、これはある意味凄く突き抜けてて、例えば量子論なんかの上っ面を部分部分齧りつつ適当な薀蓄を垂れ流しつつも、それを作者とラノ専読者間の閉じた小さな世界における自慰行為に終始させてしまうのではなく、もっとあけっぴろげなエンターテイメントとして、壮大なネタとして昇華させているのに感心した。前半たらたらと似非哲学的な薀蓄を書いておきながら、後半は完全にお遊びに持って行っていて痛快極まりない。
うえお先生はライトノベルはライトなエンタメであるからこそライトノベルであり、だからこそ最も輝くんだという大原則をしっかりと理解した上で書いておられる。
似非科学や擬似哲学を延々萌えキャラに語らせるのがライトノベルじゃない。まずはエンタメである事。それを忘れたら中二病的自意識による自慰行為の成れの果て…つまり"使用済みティッシュ"でしかなくなる。
そんな事を強く感じさせてくれる一冊でした。いや、実に素晴らしい。