哄う合戦屋
北沢 秋 志村貴子
ものすごーく現代ものチックな戦国小説。
物語としてはそれなりに面白いし、テンポが良くて読みやすいのも美点ですけど、たぶん歴史マニアの人にとっては考証面で突っ込みどころが多いような気がする。
また、主人公一徹が天才軍師という割には、最後の最後は自分が敵将と一騎打ちして首級を挙げるというパターンが多いのが気になる。軍師が槍を振るったらいかんでしょう…。
それに戦術の描写に関しても、事前の駆け引き以外は戦国SLGの合戦フェイズ的で、武器や仕掛けを活かした戦いという感じではないですね。
という訳で、歴史小説として読むとアレですけど、一徹の屈折した情念と若菜姫の出来の良さ、ついでに一般人代表とも言える吉弘のつつましい器の小ささを楽しむのが吉。
特に吉弘は一徹の活躍で領地が広がった事に最初は喜んでいたものの、やがて自分の器量を超えて領地が広がり始めた途端怖くなって一徹を疎み始めるヘタレ感に共感しまくり。
現代的に言うと、田舎の零細企業の社長が中途採用した社員の能力でヒット商品を乱発し、気が付くと大企業とも肩を並べられる位まで成長するものの、国内大手企業のみならず外資大手などの魑魅魍魎が犇めく修羅の世界を見た途端恐ろしくなって、もとの零細時代に戻りたくなってしまったというか、そんな感じ。
吉弘は基本的に善人なんですけど、善人故に野望の器も小さいんですよねえ。
ある意味癒しキャラですわ。