トンコ (角川ホラー文庫)

読書メーターで見かけて気になっていたので読んでみた。
表題作『トンコ』は食用に飼育された豚の脱走劇を豚視点で描いたもので、厳密に言うとホラーじゃない筈なのに、ほんの少し隠し味程度に忍ばされた超常的にも思える要素が全体の雰囲気を陰鬱にする効果を持っていて、これはこれ巧いと思った。
また、豚の視点で描きながらも安易な擬人化(人間のような思考や感情を行わず持たせる)を行わず、動物らしい本能的な行動を主体としているのも特徴的でした。
オチについてアマゾンで携帯小説とやらと並べてちよっとヤバいくらい見当外れなレビューをしている御仁がいましたが、作中で描かれたオチ以外の結末を想像しても、「自由を得た代わりに野垂れ死にしました」程度しか思い浮かばない(それ以外のオチにしようと思えば余程のご都合展開を積み重ねるか、もしくは意味不明の一発ネタに走るしか無い)ので、批判対象となるほどのものでもないでしょう。
むしろ順当な結末だと感じた。
トンコ以外に収録されている2編の短編も、明るくも悲しく狂ったゾンビものだったり、無縁社会の恐怖をテーマに据えたものだったりと一筋縄ではいかないものばかりで、読後に何とも言えない気分にさせてくれました。怖さだけで言うと最後の無縁ものが一番かなあ。
怪奇現象的な怖さじゃなくて、今そこにある恐怖という感じでしたけど。
全体通してホラーとしてはいささか変化球かなという印象は残った。善し悪しは別として。
ホラーとしては「変化球」って言えてると思います。
逆にそれが新鮮でいいなーって思いましたが、
この手の変化球を続けて読みたいかと
いうと微妙ですよね(^^;)。
でも豚を主人公に、あの話を書いた
著者の力量はすごいなーと感心しました。
ちなみに、ゾンビの話が好きです♪
「ハーモニー」、「虐殺器官」と傾向は似てますが、
主人公が「虐殺器官」ほど暗くないので、
そこまで陰鬱な雰囲気は無い気がします。
トンコの変化球加減は個人的には決して悪いとは思わないんですけど、確かに続けて読みたいかと言うと…ですよね。
逆に正面からのストロングスタイルな変化球はゾンビかも知れません。
ミスリードに引っ掛けられた…。
ハーモニー、今度読んでみます。虐殺器官が欝作品だったのでちよっぴり覚悟はしていますが(汗)