山岳小説風味に調理された国際謀略サスペンス。
謀略ものは結構好きなジャンルの一つですが、山岳小説は全くの未体験ゾーン。生死が常に隣り合わせとなった極限状態を描くことがジャンルの特徴だとは聞いていますが、実際に読んだ経験が無いのであまり判ったような事は言えない。当然本作品を読んでも山岳パートの出来不出来を論ずることも出来ない。
そういう次第なので、山岳パートにはあまり触れませんがご容赦を。
エベレストに墜落した冷戦時代の亡霊"ブラックフット"を巡って、アメリカ、中国、毛沢東主義者、テロリスト入り乱れた大謀略戦を繰り広げるのが本作品。
ブラックフットとは冷戦時にソ連に対抗して立案された、宇宙から地球のあらゆる地点を攻撃可能な核攻撃衛星ですが、本来はプランだけの存在だと思っていたら極秘で実機が製造され宇宙に上げられていたという話。
物語は最後までこの墜落した衛星を中心にして複数の勢力の思惑が交錯して行く事になるのですが、この作品の特徴的な所は序盤〜中盤にかけて一気に複雑化させた物語を、後半は次から次へとどんでん返しを繰り返して比較的シンプルな構図へと絞り込んで行く構成にあります。
最終的には事態の大半は衛星の部品を狙うテロリストによって偽装された壮大な狂言だったというところまで絞り込まれてしまうのですが、さすがにこれはやりすぎだと感じた。
先が読めない展開というよりは斜め上な展開に近い。
ただ、主人公の真木郷士はこの手の作品りありがちな、元工作員とか特殊部隊隊員とかの経歴を持ち、実は格闘にも銃の扱いにも精通していたりセガール拳をマスターしていたり…と言ったことは全く無いただの登山家の青年であって、最後まで極限状態の中で山を登るという行為に終始させた部分は良かったです。物語が二転三転する中、主人公のポジションだけは転がること無くしっかりと地に足が付いていたと感じた。
少し無理にどんでん返しを入れすぎてリアリティを損ねている感はありますが、娯楽作品としてはなかなか面白かったですね。