カリスト―開戦前夜 (ハヤカワ文庫JA―航空宇宙軍史 260)
航空宇宙軍との開戦を目前にした外惑星連合軍首脳部の駆け引きを描くポリティカルSF。
未来の太陽系を舞台にした物語でありながら、外惑星連合軍首脳部の描写は第二次世界大戦直前の我が国のそれを思い起こさせるものがあって、そういう生々しさはやはり谷甲州先生ならではだと思った。
特に主戦派の、思い込みと妄想に基づく甘い認識を基板とした航空宇宙軍に対する奇襲攻撃プランなんて既視感バリバリで読んでいてなんとも居心地が悪い。
軍備と言っても短期間で戦闘艦に改装可能な輸送船を多数配備する程度のお粗末な代物だというのに(ワシントン海軍軍縮条約やベルサイユ条約下でこっそりと軍備を拡張する手段としてこれは客船です!これはトラクターです!という名目で兵器転用を前提にした機材を揃えて行った前例はあるけど)敵を侮ること甚だしいと言うか。
何時の時代の何処の国にもこういう軍人はいるのだろうけど、それが運悪く将軍なんぞになった日にはそれこそ特大の不幸という奴なんだろう。
正直なところダンテのパートが懸命にこの作品がSFである事を主張していたものの、全体を通すといわゆるSFマインドは希薄。宇宙速度での戦闘もなければ特殊相対性理論も超ひも理論も出てこない。
しかし、この作品が(たぶん)シリーズ本番の第一次惑星動乱へ直接繋がっていく事を考えると絶対欠かす事の出来ないポジションなのは間違いないかな。