雨沢 泰
1970年代半ばの共産主義体制化のラオスを舞台にした異色のミステリー。
こういう特殊な国を舞台をした作品の場合、大抵はアメリカ人や日本人がそうした国々で何らかの事件に巻き込まれて…というパターンが一般的なんですけど、この作品の場合主人公からしてラオス人だし被害者もベトナム人と、極めてローカル色が強いのが特徴的。
そういう意味である種の珍品。物珍しさありきで手に取った訳ですが、これが意外と(失礼)ちゃんとミステリーしていて驚いた。作者はタイ在住のイギリス人と言う事で、東南アジアのエスニックな情緒に常に触れているだけあって、雰囲気はよく出ていたと思います…もっとも、当のラオス人から見てどう感じるかはわかんないですけど。
ラオスというマイナーな国の、しかも共産主義体制下という極めて特異なシチュエーションは結構読者を選びそうですけど、「途上国」故の設備の無さと「共産主義」故の閉鎖性を上手くミステリーのガジェットとして織り込んでいて、ちよっとした陰謀劇として展開させているのが面白い。
なにより先進国には無い独特の長閑さと、なにやら剣呑な共産主義の組み合わせが不思議な味わいを醸していて、これはなかなか拾い物ではないかと思うわけです。
主人公シリ先生の霊能力は些かチート気味ではあるけど、東南アジアのスピリチュアルなムードを考えればこれはこれでアリかもしれないが…どうだろう。
続編も海外では出版されているらしいので、翻訳されれば読んでみたいですね。