ノモンハンの夏 (文春文庫)
ノモンハン事件を取り扱った本は多数ありますが、当事国である日本とソ連だけでなく当時の国際情勢全般を踏まえて事件を精査し、総論として纏めた本となるとやはり本書が基本ではなかろうかと根拠なく思います。
三国同盟や独ソ不可侵条約を巡ってスターリンとヒトラーが虚実入り混じった駆け引きを繰り広げていた当時、参謀本部の甘い見立てと、敵国を侮る思い込みと、そして何より当時の内閣のビジョンの無さからどんどん深みに嵌っていく日本の姿は読んでいて悲しくなってくるものがある。
本書はいわゆる司馬史観の様に、この事件をして日本の侵略だと断定して非難している訳でもなければ、一時期雨後の筍のように増殖していた威勢の良い人達のようにソ連軍の損害の方が大きいから日本の勝利だと息巻くわけでもなく(そもそも特定の戦場での単純な死傷者数だけを比べても無意味です)、事件の経緯をかなり冷静に分析して書かれている様感じます。
主題となっているのは上でも触れたように、意思決定機関のダメっぷりと、現場の独断専行。そして何より、誰も責任を取らないシステムの齎すものに関して。
反面戦術的な話はかなりざっくりと流されているので、そちらに関心がある人はまた別の本を探していただくしか無い。
それにしても意思決定機関と現場とが乖離した構図や誰も責任を取らない点などは、現代でもあまり変わってない気がするのは考えすぎでしょうか。
威勢の良い言葉と裏腹に具体性に欠ける政治や、あらゆる責任を自己責任の名のもとに個人レベルに矮小化して擦り付け合い結果誰も責任を取ろうとしない現状が、本書に書かれる1930年代の日本の姿と重なって見えて仕方が無いです。
ある意味鬱本かも知れません。
読めば読む程暗い気持ちになってしまうという事で、決して楽しい本ではありませんが、この時代の歴史に関心があるなら読んでおいて損はないと思います。