
航空機事故、タイムスリップ、無人島、サバイバル、そしてサイレント・コア。
大石英司先生の作品を読み続けてきた人間ならピンと来るこの組み合わせ、つまり「神はサイコロを振らない」と「ぼくらはみんな、ここにいる」を組み合わせて、それをサイレントコア風味で味付けしましたと言う変わり種な逸品。
与太SF路線でサイレントコアが登場する作品と言うと、おそらく「深海の悪魔」以来ではないでしょうか。
東シナ海の地図に無い無人島、蝶紋島近傍の空域で行方不明になった首相専用機と総理を追って、蝶紋島に降下した田口と比嘉の二人。時を同じくして蝶紋島に漂着した中国海軍の潜水艦乗組員。
果たして無事総理の身柄を確保出来るのか…と書くといつものサイレント・コアシリーズとたいして違わないんですけどね。
しかし島に降りてからが与太SF路線の真骨頂。田口達や中国海軍乗組員達が次々に遭遇する不可解な超常現象、狐につままれたような状況解説、細かい理論的な整合性なんてどっかにうっちゃっといて、この謎が謎を呼ぶ不思議展開を楽しみたい。
ぶっちゃけると島は複数の時間軸が交錯する不思議ワールドで、2009年と1970年代の時間軸が並行して存在していたというオチ。面白いのは1970年代時間軸の蝶紋島は米軍の射爆場になっていて、そこに防衛庁から出向してきていた若き日の音無隊長がいたという驚きの超展開。
そうか、音無さん若い頃はあんな人だったのか。今と似ても似つかない姿に全力でふいた。
この物語当時では神経質な官僚肌の音無さんがどうやってあんな嫌な人になってしまったのかも気になるところですが、主題になっている総理もまたすんばらしい。台詞がいちいちあの人のダミ声+べらんめえ口調で脳内再生されてしまって笑いをこらえるのに苦労した。漢字読めないけど銃の扱いはプロ以上で(なんせオリンピック代表ですから)、攻撃してくる中国兵を軽く狙撃してしまう姿に痺れた。
総理大臣としてはともかくも人間としては非常に味のある描かれ方をしていて、それだけに最後のシーンには泣けたなあ。
時事ネタ要素が強く、賞味期限は今年いっぱいと言う感じはありますけど、面白かった。久々に大石先生らしいフリーダムさがはじけていた作品でした。