太平洋戦争当時の陸海軍航空隊を取り扱ったノンフィクション戦記。
題材が結構マニアックと言うか、水上戦闘機「強風」や偵察機「彩雲」といったあまり表舞台で語られる機会がない存在まで取り扱っているのがなかなか面白い(戦記に面白いと言う事場は不謹慎ですが)。
全体として大戦後期〜末期の題材が多いため、数のみでなく性能的にも優勢な米軍機との苦しい戦いが延々と描かれていますが、勢いに任せて突き進んでいる緒戦よりも、防戦に回ってからがその国の軍隊の真価が見えてくると思っているので、個人的には非常に興味深く読めました。
冒頭の南郷大尉のエピソードに象徴されているような一部の秀でた技量の持ち主に頼った体質、そして新鋭機材の不安定な稼働率、国力だ物量だ云々以前に負けるべくして負けた感がより強く感じられるのは気のせいでは無い。
…という話は、怖い人達に怒られそうなのでやめてこう(笑)
当時のパイロットや関係者へのインタヴューを中心にして描かれているので、厳密な資料性に関してはなんとも判断できない部分もあるかもしれませんが、しかし記録だけからは伝わってこない当時の隊内部の空気や、個人或いは機材に対する想いなど、臨場感とでも呼ぶべきものは良く伝わってきます。
訓練中の事故で記憶に障害が出ただけで軍の精神病院に放り込まれ、実家には憲兵が親族に精神病の者がいないか調査に訪れるとか今ではちょっと考え難い(尤も、現在でも第三者を使ってこっそり調査しているらしいですけど)話もあり、時代を感じてしまった。
戦記ではともすれば忘れられがちになってしまう、人間と言う要素を通して当時の戦場を描き出す手法は、このカテゴリー内では結構珍しいかも知れません。
遥かなる俊翼―日本軍用機空戦記録 (文春文庫)