ぶっちゃけ、原典どころか全く別ベクトルの作品なのに面食らった。
一応は80年代当時の東西冷戦をモチーフにして描かれているのですが、艦隊シリーズの様な作者のユートピア願望はほとんど含まれておらず、純粋に戦争に終始しているのが心地よい。
近代戦に要塞という概念はどうか?と思ったりする部分も無きにしろあらずですが、そこは荒巻節と理解して華麗にスルーするのが大人の作法。
実在の地名を使いながらも完全に架空の世界を舞台にしていて、生産力や経済力といった部分は完全に無い事になっているのがすごく特徴的です。作中の説明によると太平洋の向こう側から兵器は無尽蔵に運ばれてくるらしいですし、兵員も次々に冷凍状態で運ばれてくるのを蘇生して使用するとかで。
実現不可能な国家戦略を延々と語る艦隊シリーズから比べると随分思い切った設定でありますが、氏の作風だとこの位で丁度良いのもまた事実。純粋に戦術だけに特化した仮想戦記というのもまたよきかな。
艦隊シリーズがとにもかくにも日本を勝たせるという目的で書いていたために常にワンサイドゲームで進捗していたのに比べると、両軍共に血を流しながら延々殴り合う消耗戦の様相が描かれているのですが、これは作品中随所で触れられている六道だか十界だかを匂わせる仏教的世界観でいうと、作中世界は修羅道であるという暗喩でしょうか。
艦隊〜も輪廻転生が物語の主要キーワードでしたが、この作品もそういう類の神がかり的な要素が極めて強いと感じた。
ニセコ要塞1986〈1〉利尻・礼文特攻篇 (中公文庫)