怪しいインスパイヤ小説に続いてこちらは本家。
クトゥルーではなくク・リトル・リトルという奇矯な響きを持つ読み方をしているのがまた趣があって良い。
基本的な路線としてはクトゥルー神話体系初期の作品をチョイスして編纂した短編集で、ラヴクラフト以外の作家のものも多数収録されています。
シリーズ化して刊行されるとは考えてなかったのか話のチョイスに関してはやや疑問が残る部分もありますので、クトゥルーものを読んでみたい!という人が最初に手に取る本としてはあまりお勧めできない。初心者の方は入手しやすい創元のラヴクラフト全集あたりから読んでいく事をお勧めします。
それらを踏まえた上で、より初期の雰囲気を楽しみたいと思った人向けかな。
で、話のチョイスの仕方にやや疑問があると書きましたけど、第一話目に「アルハザードのランプ」という短編を持ってきたセンスは秀逸。
この作品はラヴクラフト自身をモデルにしたかのようなフィリップス・ ウォードという作家が、人生の最後の瞬間にアルハザードのランプに導かれて彼が夢見た異界へと旅立つという筋書きで、ラヴクラフトへの賛辞とも受け取れるこの短編を冒頭に持ってくるところに編者の荒俣氏のリスペクトぶりがうかがえる。
これで一気にテンションが上がったのは言うまでも無いのですが、その後のチョイスが枝葉的作品に終始したのが少し残念でした。特に「インスマスの追跡」なんて「インスマスを覆う影」と「永劫の探求」の両編を読んで無いと舞台設定やキャラクターが把握しづらい事この上ないと思うのですが。
もっとも、ただでさえ入手しづらいこのシリーズを手に取る人なら既に読んでてもおかしくはないか。
個人的に一番嬉しいのは、当時の「ウィアード・テイルズ」に載せられていた挿絵を積極的に使用している事で、挿絵の存在が現代のクトゥルー作品とはまた違うどこかゴシックな雰囲気を醸し出しています。
こういうこだわりは大いに評価したいですね。
ク・リトル・リトル神話集 (ドラキュラ叢書 第 5巻)
