1巻終盤の流れを引き継いで、沿海州を巡る戦いが描かれるユラ戦第2巻。
1巻の異常なテンションはだいぶん落ち着いた感もありますが、特定の主人公を設けず個々の兵士視点で戦場を描く手法が七里積極的に使われていて、臨場感は相変わらず健在。「戦場」を描きながらも全体を俯瞰して「戦争」を描く事もそれなりに行われていて、沿海州地域の地図を眺めながら読むとより趣き深いものがあります。
しかし日本ソ連共に戦術がお粗末で、共に人命をあまり考慮していない戦い方をしている姿はなんとも諧謔味に溢れていて居心地が悪くなってしまう。戦車に火炎瓶で立ち向かうのも、ウラウラと吶喊するのも、当事者には(主に精神論的な見地で)それなりに言い分もあるだろうけど、第三者視点で見るとやってる事はたいして変わらない。
それこそ神風とターランに精神論以外の面でどれほどの差があるんだろうかという話みたいなものです。もちろんまだ作中では両軍共に体当たり戦法の愚は犯しちゃいませんが。
奇襲効果と天佑に支えられて何とか沿海州を制圧した日本軍ですが、あくまで満州の後背を衝かれる危険性を排除できたに過ぎません。戦場にはT-34もちらほらと現れ始めましたし、何より巻末で極東方面戦略総軍司令官にジューコフが就任した事でそろそろ辛くなってくるだろうなあ。
なお、上で兵士の視点云々と書きましたが2巻ではソ連兵視点が大半で、実はソ連軍が主役?と思ってしまうレヴェルだったのにふいたw
特に初期型T-34を受領して九七式改や百式砲戦車(史実の一式砲戦車)と対峙するスミルノフと部下2名のエピソードは秀逸。
この巻のメインといっても差支えが無い。百式に撃破されたもののなんとか脱出して生き残ったので、また先の巻で登場するかもしれない。楽しみにしておこう。
亜欧州大戦記〈VOL.2〉東部正面電撃戦 (歴史群像新書)