クトゥルフ神話に登場する人知を越えた存在の中でも特に嫌らしい意味でのトリックスターとして有名な、ニャラルトホテプを萌えキャラにしてしまえ!という冒涜的なコンセプトで描かれた宇宙的喜劇。
創元のラヴクラフト全集に飽き足らず、青心社の暗黒神話体系シリーズにも手を出してしまったような人、更には入手が結構困難な国書刊行会のク・リトル・リトル神話体系もバッチリだぜと言う(むしろラヴクラフト原理主義に陥らないためにも手を出す事を推奨)人ならば、きっとこれも許容できる。はず。
菊池秀幸氏の「妖神グルメ」みたいな珍作も読んだ事がある人ならきっとこれも理解できる。はず。
そうでない人はSANロールチェックしてください。そして正気度に余裕があれば手にとってみてください。
というかね、いきなりニャル子さんが宇宙人だ、ニャルラトホテプ星人だと言い出したときにはなんぞこれと思ったわけですよ。いくらクトゥルフ神話からインスパイヤされたにしても換骨奪胎著しいだろうと。
しかし、最後まで読むとちゃんとクトゥルフしていると言うか、作者の人は結構クトゥルー好きなんじゃね?というのがちゃんと伝わってくる。ニャラルトホテプやクトゥグァ、ルルイエにクトゥルーと言った大きなネタから、黄金の蜂蜜酒みたいな小ネタまでちゃんと仕込まれていてソツが無い。
ルルイエの屋台で黄金の蜂蜜酒が売ってるとかどんな皮肉だよ、みたいな。
また、「名状しがたいバールの様なもの」みたいに、御大のもって回った言い回しをネタにしているのも芸が細かくて好印象。
些か悪ノリしすぎている部分はあれども、クトゥルフ神話のシェアードワールド的な世界観の広がりを思えば、これもまた体系の末席に身を置いたとしても構わないかなと思います。
また、上で述べたとおり(表向きには)萌えジャンルではあるのですが、どこか醒めた視線で萌えそのものをギャグにしている部分があったりして、いわゆる萌え豚系とも微妙にターゲッティングがずれている点や、作品の元ネタにクトゥルフを選んだり、パロディを大量に仕込みつつもほとんど投げっぱなしにしている作風なんかも含めて、やや老成した雰囲気を感じるのが興味深い。
若さの勢いで書いたならもっとパッションが前に出ていても良いのですが、作中のニャル子さんよろしく掴み所が無くて何を考えて書いたのか今ひとつ判らない部分がある。それがまた思考回路が謎なヒロイン?とメタ構造を成していて…云々。
結論としては、うちにも一体ニャル子さん来ないかなーってことで。いや、宇宙の邪神ちっくな方々に狙われるのは御免ですけどね。
這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)
狐印