
神と呼ばれる存在と、人間(厳密には科学文明か)との相克を描いたSF大作。
なんだと思うんだけど、正直あまりSFらしさは感じません。
その最大の理由が物語の舞台となる21世紀前半世界の描写で、月面での資源開発が始まったり、ブースター無しで大気圏を離脱可能なスペースプレーンが実用化されていたりはするものの、その他の部分では現代とほとんど変わらない。
そういう意味で所謂SF小説ではなく、ハリウッド映画的な何かの方を強く感じざるをえない。
もっとも、その辺に関しては、物語がほとんどアメリカの地方都市を中心にして進むし、大統領が陰謀を巡らせたり、第二次世界大戦終結直後からアメリカの暗部を司っているある存在が登場したりと言った部分の影響もあると思います。
陰謀論はハリウッド映画には欠かせれない要素ですし。
と、こんな事を書くとアメリカ映画的なライトなノリの作品かと思われそうですが、決してそういう訳ではなく。
ユング辺りを引用して科学の及ばない存在に言及しつつも、衒学的に陥らないギリギリのライン上で踏みとどまっているという感じです。
この辺は賛否両論ありそうですけど、個人的にはアリだと思う。
作者の思索を書く本ではなく、小説と銘打っている以上まずは小説としてのリーダビリティを最優先するのは当然の事で、神や集合無意識に対する作者なりの考察はその次でいいです。そのバランス感覚を見失って、なんだかよくわからない代物になってしまっている作品も過去に幾つか見てきただけに…。
ノベルスで400P、文庫で言えば500P程度の大作だけに、まずは物語として面白くないとテンションが維持できませんからね。
個人的にはテーマにやや食い足らなさを感じたけど、この作家さんは本作品と同じテーマの作品を複数発表されているので、それらを読む事で相互補完が出来るのかもしれません。
その辺りについてはまた他の作品を読んだ機会に触れる事にしたいと思います。