> 水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)
世の中には言葉にするのが難しい作品が少なからずあったりするのですが、この作品もまさにそう。
一つ一つの作品に込められた作者の思いをぼんやりと汲む事は出来るけど、明確な回答は困難。
この作品に漂う閉塞間や拠って立つ足元が存在しない不安感は、おそらくは執筆された時代背景が大きく関係している様で、戦争が終わって全ての価値観がリセットされたばかりの時期に執筆された作品群ですから、新しい価値観への不安や、ほんの少しまで信じられてきた諸々が一瞬にして崩れ去っていった事への不信感がそのまま作品に表れているのではないかと思ってみたり。
そういう次第なので、見かたによれば政治色も結構強いです。
しかも、その政治色の部分が現代の世の中に当てはめる事も出来たりするから怖い。
60年前から人間のやることなんてたいして進歩しちゃいないと言う事かと思うと、将来進歩する期待も持てなくなってしまうだけに尚更鬱になる。
もちろん期待するだけ間違いと理屈では判っちゃいるのですかね。
全体を通して人間が別の何かに変身する話が多いのは、言うまでも無くあの作家の影響だと思われます。
変身を単にユーモラスなものに感じるか、はたまた人間の在り方について考え込んでしまうか、この辺もたぶん精神状態によりけりなんだろう。
非常に味わい深い短編集ではあるけど、ネガティブ嗜好の人や鬱の気がある人にはあんまりお勧めできない。
わー、これすごく懐かしいです。
安部工房、2冊目くらいに読んだのがこれで、
黒猫さんと同じく「曖昧でよくわからない」
という読後感に。
でも、作品から漂ってくる雰囲気というのが
たまらなくよくて、その後も安部工房を
読みつづけました(^^)。
でも、気分が滅入ってる時読むと、
確かに悪い方に引き摺られそうですよね。
実は僕もこれが2作目です。
内容は形而上的でなんだか良く判らないですけど、むしろだから味わいがあるのかもしれません。比較的判り易い「闖入者」とかは理不尽さがダイレクトに伝わりすぎて憂鬱になってきましたし。
>でも、気分が滅入ってる時読むと、
確かに悪い方に引き摺られそうですよね。
それだけ作品に力があると言う事なんでしょうね。