
日米開戦に先立って戦端が開かれた日ソ開戦初頭、ウラジオストック奇襲作戦においてソ連空軍の反撃で手痛い打撃を受けた赤城と加賀を戦訓とし、航空主兵論の台頭とあわせて装甲空母として完成された大和と翔鶴・瑞鶴の3隻を主力とした日本海軍が太平洋戦争に臨むと言うもの。
もともとこの作者さんは兵器を当時の技術水準内で改造する魔改造戦記を得意としていて、鉄獅子の咆哮や戦艦大和欧州激闘録など、戦術レベルにおける改変がなかなかに面白い作品を発表しておられるのですが、その一方で大局的な歴史改変……つまり戦略的なレベルでの改変に関しては色々とアレな部分があったりします。
この作品では改造要素の比率が低めになっていて、シリーズ化を意識してか歴史の改変の比率を高める方向に果敢にも挑んでいるのですが、正直なところ突っ込みどころが多い。
当時の関東軍の戦力ではソ連と開戦した場合まともに戦えるとは思えない(モスクワ前面にドイツ軍が迫っている状況だとしても無理)し、日中戦争・日ソ戦争を引き摺ったまま日米開戦なんて正気の沙汰とは思えない。
作者もその辺のところは多少意識しているらしくて、ドイツがソ連を降伏させるだろうと他力本願の戦争を始めた云々と書いてますが…投げやりだなあ。
面白いのは数多の仮想戦記においてほとんど悪役専門扱いとなっているハルゼーを多少なり持ち上げているところか。
例のキルジャップ発言のおかげで日本においては軍人の資質以前の問題として、情緒的に嫌われまくっている彼ですが、作中世界におけるアメリカ側の航空主兵論者としての立ち回りには興味が湧いてきます。
この巻では真珠湾攻撃までしか描かれてませんが、今後どう歴史を変えていくかは何となく見届けたい。