麻薬密売人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-5 87分署シリーズ)
中田 耕治
警察小説の古典、87分署シリーズ第3作目。
冬のアイソラを舞台に、移民問題と10代に浸透しつつある麻薬問題を描く内容は、前2作に比べるとやや社会派な雰囲気。移民と麻薬という組み合わせに関しては、この作品が描かれてから50年経つ今でもリアルタイムでアメリカ…だけでなく最近は日本なども直面している大きな問題の一つであります。
今回の作品には麻薬密売少年グループのリーダー格としてゴンゾという存在が仄めかされ、そのゴンゾなる謎の男を追う展開が一つの謎解き的要素になってはいますが、多分大抵の人はゴンゾの正体にすぐ気付くでしょう。
そういう意味で謎解き要素に関してはかなり薄味と言わざるを得ない。
この点についてはたぶん、作者は社会問題を作品を通して訴えようと言う意図の基にこの作品を書いたから、その意図をストレートに伝わるように敢えてミステリー的な部分を排除したのではないかと思ってみたり。
相変わらず海外ものには珍しく季節の移ろいを感じさせる情感溢れる描写は健在ですし、ヘミングウェイがどーのこーのという捻りの効いた会話も面白かった。
キャレラがゴンゾに撃たれて死にかけたりとか見所もそれなりにあるし、まあ楽しめたですかね。