Tove Jansson 冨原 眞弓
ムーミンシリーズの原点とも言える作品。
シリーズ化されて以降のムーミンに比べると設定に色々と差異があり、特にムーミントロールの姿は後のものに比べると随分違うのが興味深いです。
存在そのものも、人間の家のストーブの裏などに住んでいる妖精みたいなものとされていて、当然サイズもそれなりに小さい。
そんなムーミントロールの母子が、冬が訪れる前に安住の地を探して旅に出て、様々な冒険を経てムーミン谷にたどり着くまでの話。こう書くと結構長い物語の様に感じられますが、結構短い作品です。
ムーミンパパはニョロニョロと一緒に勝手に旅に出てしまって行方不明というのも何か凄いけど、これはもしかしたら執筆された当時の世情を表しているのかなと思ったりも。
執筆当時のフィンランドはソ連に対して、国内からドイツ軍を撤退させる事を条件に休戦を結んでいた頃だと思います。ようやく戦争が終わると思ったら、今度はドイツ軍相手にラップランド戦争が始まり…と、そんな状態。
この作品におけるニョロニョロは自らの意思があるのかどうかもよく判らない、集団で行動する生き物(植物)ですが、これはきっと軍隊をカリカチュアした存在だと思います。そう考えると、家族を置いてニョロニョロと旅に出てしまったと言う事がどういう意味なのかはなんとなく見えてくる気が。
後のシリーズではこうした暗い世情を匂わせるものは少しずつ減っていくのですが、でも完全に無くなる事はありません。海に機雷が流れ着いたり、アメリカのラジオを聴いて喜んだりと、ソ連の影が重くのしかかっている事を連想させる描写は随所にあるわけです。そういう意味で、ムーミンシリーズはフィンランドの苦難の戦後史を反映していると言えるのではないでしょうか。
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